高橋さんは「音楽は街のなかで鳴るものでもあるし、そのときの街の状況と無関係でいられない」と話す(撮影/小財美香子)

――なるほど。私もダンスミュージックは大好きですし、「何も考えず楽しく踊れたらいいな」と思うことがありますが、社会的な問題を忘れて盛り上げることはもうできない気がしています。

 いとうせいこうさんが「メッセージを乗せた音楽でリスナーを踊らせてるのがいいんだよ」と言ってくれたことがあって。楽しく踊ってるうちにメッセージが耳に入ってくるかもしれないし、そうやって混ざっていけばいいのかなと。

 これもよく思うんですけど、「差別をやめろ」というのは思想の話じゃなくて、暴力に反対しているんですよ。「個人の考えを弾圧するのか」と言われることがあるんですが、そういうことでは全然ないので。たまに社会の現状が楽しくないから音楽を聴いている時くらいはそれを忘れたいという声を聞くこともあり、それもわかるのですが、社会の状況が楽しくないのならなおさら、それを無視して踊っても本当の意味では楽しくないと思うんです。僕はむしろ目の前にある問題と闘いながら鳴らしている音楽のほうが盛り上がってしまいます。ソウルやファンクもそうですけど、閉鎖的なものを打ち破ろうとするエネルギーが大事だし、音楽はもともと社会と切り離せないもの。どんなアーティストもそこからは逃れられないと思っています。もちろん誰もがプロテストソングを書く必要はないし、ポリティカルな要素が音楽という芸術の核だとは思いませんが、あくまでの姿勢の話として、少なくとも無関心ではいられないのかなと思うんです。

 音楽は街のなかで鳴るものでもあるし、そのときの街の状況と無関係でいられないじゃないですか。自分がいる場所の歌を作ろうとしたら自然と社会的なことに目が向くはず。今はノンポリ的にやっていても、逃げ切れないと思うんですよね。もちろん、自分がすべて正しいとは思ってなくて。気づかないうちに差別的な言動をしていることもあるかもしれないし、勉強を続けて、その都度、修正していくしかないですよね。

(取材・文=森 朋之)

たかはし・まこと/2009年、多摩美術大学にて8人組のソウルバンド、思い出野郎Aチームを結成。Trumpet, Voを担当。2021年の新木場スタジオコーストでのワンマンライブから、サポートミュージシャンと手話通訳をメンバーに加えた編成でも活動中。

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森朋之

森朋之

森朋之(もり・ともゆき)/音楽ライター。1990年代の終わりからライターとして活動をはじめ、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。ロックバンド、シンガーソングライターからアニソンまで、日本のポピュラーミュージック全般が守備範囲。主な寄稿先に、音楽ナタリー、リアルサウンド、オリコンなど。

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