高市早苗氏
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 自民党総裁選の投開票日が27日に迫っている。政権与党である自民党の総裁に選ばれることは国のトップになることを意味する。9人の候補者が連日政策議論を戦わせているが、外交・安全保障政策に関しては強硬な発言も目立つ。保守層へのアピールともとれるが、日本全体にどういう影響をもたらすのか。シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」代表で、弁護士(日本・ニューヨーク州)の猿田佐世さんが寄稿した。

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 自民党総裁選目前である。9月に入り、候補者による討論会が行われているが、候補者らから、外交・安保政策についてタカ派色の強い政策が次々飛び出している。

 今回の九人の自民党総裁の候補者のうち、外務・防衛大臣経験者が五人いることもあって、外交・安保についての論戦が白熱していると言われる。もっとも、この総裁選で投票権を持つのは自民党員・党友のみであることから、当然ながら全国民に向けたものに比べれば議論は保守的なものとなり、候補者は保守層から票を得ようとしてタカ派的な政策を打ち出すことが、白熱の要因ともなっている。対中強硬姿勢がこれまで以上に押し出され、既に現政権で急激な勢いで進められてきた防衛力の強化や自衛隊と米軍の一体化のさらなる加速に向けた発言が候補者から続いている。

 誰もが知るように明確にタカ派的な政策を掲げるのは安倍晋三元首相に近い高市氏である。高市氏は、日本の国是ともいえる非核三原則、即ち、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」について、「持ち込ませず」の見直しを提案する。即ち、核兵器搭載の米艦船の日本寄港を認めるべきとの考えであり、核共有にも言及する。中国が日本の大陸棚に位置する海域に設置したブイの問題についても、「撤去すればいい」とする。また、氏は、毎年靖国神社に参拝してきたが、この韓国・中国との関係に強く影響を与える靖国神社の参拝を首相として実現したいと述べている。

 自民党の中でも安保・防衛に詳しく防衛大臣の職にもあったのが石破茂氏である。石破氏も、非核三原則の「持ち込ませず」の見直しに理解を示し、さらには核共有の議論を進めるとしている(石破氏の説明では核共有そのものについては「意思決定の過程を共有」で非核三原則に抵触しないとの認識)。また、石破氏は、中国を念頭に「アジア版NATO」の創設も公約に掲げる。他方、現状の非対称な日米同盟関係を変えるとも訴えており、日米地位協定の見直し着手を表明し、また米軍基地を自衛隊との共同管理にするとも訴えている。イタリアなど米軍を受け入れる国の軍隊が駐留米軍を管理している例があるが、米軍が基地の排他的管理権を握る日本の現状において、これらの石破氏の主張は、米国との関係は波風立てないとの従来の自民党の姿勢からはかなり踏み込んだものではある。

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猿田佐世

猿田佐世

猿田佐世(さるた・さよ)/シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」代表・弁護士(日本・ニューヨーク州)。各外交・政治問題について、ワシントンにおいて米議会等にロビイングを行う他、国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施。研究テーマは日米外交の制度論。著書に「新しい日米外交を切り拓く(集英社)」「自発的対米従属(角川新書)」など

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