タカ派色の強い発言で言えば、外相・防衛相の経験のある河野太郎氏も日本が原子力潜水艦の保有を議論すべきと主張している。
なお、首相の座に圧倒的に近いとも噂されていた小泉進次郎氏は、政策についての候補者討論が続く中で、伸び悩む、と評されている。小泉氏が具体的政策を自らの言葉で十分に語ることができないことがその理由とされるが、外交・安保政策ではその傾向が顕著である。北朝鮮への対応で、金正恩総書記について、「父親同士が会っている。同世代同士、新たな対話の機会を模索したい」と“同世代”を強調する発言に批判が広がった。
九人の候補者の中で、「ハト派」をあえて挙げれば、林芳正氏になるのだろう。もはやその影もないとも言われるが、従来、その出身の宏池会は「軽武装、経済重視」を掲げ、林氏自身、日中友好議員連盟の会長を務めた経験もあり、「知中派」を自任している。同じく宏池会出身の上川陽子氏も、原爆被爆国や女性活躍を意識する等、一定ソフトな印象を与えている。
もっとも、アジア版NATOといった中国との緊張関係をさらに劇的に悪化させ、このインド・太平洋地域の安保環境を大きく変えるような発言(石破氏)に対して、茂木敏充氏、林氏が、現実的ではない等とけん制するだけでハト派に見えるほど、全体の議論が強硬論に流れている。
そもそも忘れてはならないのは、現政権下で行われた安保三文書改定による敵基地攻撃能力の保有や防衛予算の倍増などは、戦後日本における安保政策の歴史的大転換であり、既に、日本はものすごいスピードで強硬姿勢に舵を切っているという事実である。さらにこれを加速させる政策が今の自民党総裁選では議論されているのが現実である。
政治家の発言は選挙民向けアピールで常に強硬方向にブレがちである。繰り返しになるが、特に保守政党である自民党内部の選挙とあればなおさらである。これらの強硬な発言については「目立ちたいだけ。どうせできない。」との見方も党内や官僚から出ているとの報道もある。しかし、仮にそれらが直ちには実現できない政策であったとしても、メディアがそれを広く報道し、その発言に世論が大きく影響されることも忘れてはならない。結果、このような国内政治の事情に影響されて実際の外交・安保政策がより強硬になっていく。これは日本に限ったことではないが、この悪循環は絶たれねばならない。
また、8月以来の1カ月強の選挙戦の間、誰が立候補するのか、推薦人は集まるのか、出馬会見はいつか、そんな政局ばかりが報道される日々が続いた。そして、候補者がそろい、やっと政策論議に入ったと思ったら、あっという間に選挙当日が迫ってきた。