マダックスが優れていたのは、何も投手としてだけではない。打者・走者としては通算272安打(打率.171)、35二塁打、5本塁打、84打点、11盗塁を記録。1990年からの13年連続を含め、メジャーリーグの全ポジションで歴代最多となる18回のゴールドグラブ賞を受賞するなど、守備の名手としても知られていた。牽制刺も通算で28個を記録しているものの、ある時から走者を出しても「本塁にかえさなければいいのだろう」とばかりに気にしなくなり、自身の登板時に歴代2位の通算547盗塁を許しているのもまた彼らしいと言える。
なお「MLB.com」によると、投球数が正確に記録されるようになった1988年以降、メジャーリーグのレギュラシーズンで「99球未満の完封」を最も多く達成したのは他ならぬマダックス自身で通算13回。これは2位のゼイン・スミス(ブレーブスほか)の7回に大きく水を空けるものであり、ルークハートが「マダックス」と名付けたのも納得である。日本では今年はこの「マダックス」の“当たり年”でここまで7回、うち日本ハムの伊藤大海が2度記録しているが、1人で通算13回というのは途方もない。
そもそも先発投手の投球数が厳しく管理されるようになった現代では完投、完封自体がレアになっており、現役投手の最多完封は今季でメジャー17年目のクレイトン・カーショウ(ドジャース)の15回(マダックスは通算35完封)。「マダックス」の現役最多はマックス・フリード(ブレーブス)の3回で、マダックスの持つ13回という記録は今後、大がかりなルール変更でもない限り破られることはまずないだろう。(文・菊田康彦)
●プロフィール
菊田康彦
1966年生まれ。静岡県出身。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身。2004~08年『スカパーMLBライブ』、16~17年『スポナビライブMLB』出演。プロ野球は10年からヤクルトの取材を続けている。
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