国際日本文化研究センター所長・教授:井上章一さん(いのうえ・しょういち)/1955年、京都市生まれ。専門は風俗史、建築史、意匠論など。主な著書に『京都ぎらい』『阪神タイガースの正体』ほか多数

井上:タイガースに関することはいちいち懐かしいので、こんなこともあった、あんなこともあったと思いながらこの本は読みました。選抜大会、選手権大会の高校野球も網羅されていて、私は公立高校躍進についての記述を興味深く読みましたね。対戦相手の私立の強豪校が“敵役”になってしまうのは気の毒ではありますが。

中川:強豪校同士の戦いもそれはそれで見ものですし、それを好む人もいますけれども、やはり日本人は判官びいきというか、弱い者のほうに味方するという心理がありますよね。そうなるとお金のある私立に対して戦力もお金も少ない公立校が頑張るのは好まれる物語なんでしょうね。

井上:負けた後、球児たちが涙を流しながら、甲子園の土をかき集めて持ち帰る歴史も学べました。

中川:今や土を持って帰るという行為が様式美のようになっていますが、夏の選手権大会で言えば、出場49校のうち48校は負けるんですよね。1校しか勝ち続けられない。つまり甲子園というのは敗北の歴史だと思うんです。阪神もめったに優勝しないし。高校野球では、今は対戦する両校の校歌を試合の序盤に流しますが、昔は勝ったほうしか流れなかった。敗者のために何を与えられるか。校歌が歌えなかった学校がそれに代わるものとして土を持って帰ったともいえるでしょう

 阪神ファンは東京を含め、全国に多いですよね。

井上:大阪を出て東京へ行けば、大阪を捨ててしまったという負の思いを抱いてしまう。だからこそ、タイガースにだけは魂を残しておこうと思う人は、首都圏でも多いように感じます。私は、読売新聞東京本社に勤めている阪神ファンの気持ちも知りたいんです。

中川:知り合いにいます。なんか読売社内の阪神ファンは秘密結社みたいだったらしいです。結局、阪神ファンはやめず、たしか10年くらいで読売を辞めました。

(構成/編集部・秦正理)

作家:中川右介さん(なかがわ・ゆうすけ)/1960年、東京都生まれ。主な著書に『阪神タイガース 1965-1978』『阪神タイガース 1985-2003』『プロ野球「経営」全史』ほか多数(写真:書籍編集部・上坊真果)

AERA 2024年9月23日号より抜粋

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