今年100周年を迎えた阪神甲子園球場。これを機に『100年の甲子園』を刊行した作家の中川右介さんと、『阪神タイガースの正体』という著書もある井上章一さん。ともに阪神ファンであるふたりが、甲子園を語り合った。AERA 2024年9月23日号より。
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中川右介(以下、中川):よく東京生まれなのに、なぜ阪神ファンなのかと訊かれます。たしかに1960年生まれで、少年時代はもろに巨人のV9なんですが、阪神タイガースや甲子園が大阪、関西のものだという認識がないうちにタイガースが好きになったんです。漫画の『巨人の星』を小学校半ばに読んで、主人公の星飛雄馬よりライバルの花形満に憧れたのがきっかけだったか。現実世界の当時の阪神も、江夏豊、村山実らに田淵幸一が出てくるなど、決して暗黒時代というわけではなく魅力的でした。
井上章一(以下、井上):江夏、村山がジャイアンツという体制に歯向かいながら、最終的に挫折を強いられる。なんとなく、昔の学生運動へ向けたのと同じような思いを抱くこともありました。挫折を宿命とする反逆への感傷的な考えとも言えるでしょうか。
私が若いころに感じたのは、首都・東京に対する関西人の思いと、“読売帝国主義”の前に敗北を余儀なくされる阪神の姿が重なるということでしょうか。敗北を宿命としたロマンティシズムというのかな。そういったものへの共感があったかもしれません。スポーツを楽しむというより、阪神タイガースという物語を楽しんでいると言ったほうが近いでしょうか。選手の技術がどうというよりも、無念を抱き締めることに、うっとりしていたのかな。大人になってからは、こういう心模様をすてましたが。
甲子園は敗北の歴史、大阪出ても魂は阪神
中川:昨年、阪神タイガースが久しぶりに優勝して浮かれていたんですが、そのときに「来年は甲子園球場100周年」と気づきまして。この勢いで行けば連覇があるんじゃないか、それに合わせて本を出せば……というような発想から『100年の甲子園』(朝日新聞出版)の執筆が始まりました。