千葉県内の繁殖場。母猫はこの「産室」で出産、子育てをする=2023年10月、太田匡彦撮影
千葉県内の繁殖場。母猫はこの「産室」で出産、子育てをする=2023年10月、太田匡彦撮影
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 多くの著名人がメディアで動物愛護を説き、悪質ペットショップは糾弾され、保護や保護犬を迎える人が増えた。ペットを取り巻く環境は大きく変わりつつあるが、「かわいい」の裏側にある動物たちの悲惨な運命を、我々はまだ知らないのではないだろうか。朝日新聞記者・太田匡彦氏が、『猫を救うのは誰か ペットビジネスの「奴隷」たち』で17年にわたる取材で得た知識や経験を綴った。なぜ太田氏がペットビジネスの取材を始めることになったのか、その理由と深く熱い思いを、「はじめに」と「あとがき」の一部を抜粋・再編して公開する。

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 いつの間にこうなったのか。気付けば猫は「買うもの」になりつつある。

 動物愛護団体がいま一生懸命に野良猫を捕獲し、不妊・去勢手術を施し、元いた場所に戻す「TNR活動」を行っている。外で暮らす猫を徐々にでも減らし、殺処分されてしまう不幸な命が生まれるのを防ぐためだ。

 外で暮らす猫をゼロにするのは遠い道のりだ。でも進んでいけば、確実に「殺処分ゼロ」に近づく。地域単位では、屋外で猫を見かけなくなったところも出てきた。

 ただ、懸念がある。この活動が成果をあげていった先にある世界では、猫は「買わなければ手に入らないもの」になるかもしれない。

 ペットビジネスの犠牲になる猫がいまより格段に増えていくのではないか――。そんな不安をおぼえる。

  現代において犬たち、猫たちは人間にとって「家族の一員」と言えるまでの存在になっている。だが一方で、日本には「奴隷」の身分を強いられる犬、そして猫が存在するようになった。命の「大量生産」「大量消費(販売)」を前提とするペットビジネスの現場にいる犬、猫たちのことだ。

 狭いケージに閉じ込められたまま生産設備として扱われ、その能力が衰えるまでひたすら繁殖させ続けられる犬、猫たち。物と同じように市場(いちば)で競りにかけられ、明るく照らされたショーケースに展示され、時に「不良在庫」として闇へと消えていく子犬、子猫たち。

 繁殖から小売りまでの流通過程では、劣悪な飼育環境下に置かれるなどして毎年、少なくとも2万5千匹前後の命が失われている。

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