太田匡彦著『猫を救うのは誰か ペットビジネスの「奴隷」たち』(朝日文庫)
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 他方で、2022年度には全国の自治体で1万7241匹もの犬が殺処分された(環境省調べ、負傷動物を含む)。

 ペットショップの店頭で子犬や子猫を眺めていても、犬や猫を迎えて一緒に暮らしていても、多くの人は、こうした「奴隷」の存在を意識することはないだろう。

 犬や猫などのペットは間違いなくかわいい。かわいい犬や猫に接したり、動画を見たりしていると確かに癒やされる。だが、犬や猫の「かわいさ」だけを一方的に消費することは、命への無関心と表裏の関係にある。無関心は、かわいさの裏側にある、過酷な運命をたどらざるを得ない犬猫たちの存在から、目をそむけさせる。

 結果として、ペットビジネスの現場で苦しむ犬、そして猫たちは救われることなく、その苦しみはそのまま次の世代にも受け継がれていく。

 動物に関する取材を始めたのは2008年夏のことだ。当時はまだ10万匹前後もあった犬の殺処分数の裏にひそむ、繁殖業者やペットショップによる売れ残りや繁殖引退犬の遺棄問題を追ったのが、その最初だった。

 そもそもどうして一連の取材を始めたのか――。問われると、両親がともに獣医師資格を持っていて、犬はもちろんウズラ、ハムスター、モルモットなど常に何らかの動物が家にいる環境で育ったことを、理由にあげてきた。

 しかしよく考えたら、もう一つ大きな理由があった。取材を始めた当時飼っていた、柴犬さつきの存在だ。さつきがそばにいたから、犬たちを巡る問題にのめり込んだ。さつきとの日々がなければ、この道を進んでいなかったと思う。

 それから足かけ17年。取材を始めたころに比べれば、繁殖業者やペットショップにまつわる問題は世の中で知られるようになった。ただそれでも、多くの人がまだ「かわいさの裏側」について、無関心であり続けていて、犬につづいて猫も、ペットビジネスの犠牲になりつつある。

 2019年に行われた動物愛護法改正は、ペットビジネスにかかわる犬猫の動物福祉(アニマルウェルフェア)を向上させるという意味では、大きな前進だった。8週齢規制と飼養管理基準省令の制定が実現したことは、日本の動物福祉史のようなものを考える時、一つの画期だったと言える。

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