一方、大学生のケインは、政治に無関心な人々に「有権者登録」をさせるのが、どれだけ至難の業か、実体験から骨身にしみて知っているだけに、40万人がスウィフトによって登録をうながすサイトに誘導されたという事実の重さをかみしめた。
ケインは高校3年生だったコロナ禍中に、地元政治の行方に強い危機感を抱き、出身地であるニューヨークの路上に立ち、民主党の地元候補者のボランティアとして、市民に有権者登録をよびかける活動をした。「道行く人々に『有権者登録しませんか?』と呼びかけても『ニューヨークはどうせ民主党が強いんだから、自分ひとりぐらい投票しなくても結果に影響ないから』と多くの人に素通りされてしまった」と言う。
アメリカでは有権者登録をしない米国市民は選挙で投票できない。それが実は結構なハードルなのだ。
では、ハリス陣営がのどから手が出るほど欲しいであろう「トランプ支持者だけどテイラーが好き」という人の票や「トランプかハリスか迷っている」という人の票の行方は、このスウィフトの「支持声明」によって影響を受けるのだろうか?
ケインとサーピーは「トランプかハリスかの選択で迷っている人を、自分の周囲ではひとりも見たことがない」と言う。
また、サーピーは昨年、ミズーリ州のカンザスシティーで開催されたスウィフトのコンサートを観に行った時のことをこう説明した。
「ミズーリ州は言わずと知れた共和党の牙城。つまり政治的には真っ赤な保守の土地。この地に住んでいた私はそれを当然熟知している。でも、テイラーのコンサート会場内では、トランプ支持者っぽい人は見かけなかった。もしかしたら、私のアンテナが鈍いだけかもしれないけど、テイラー・ファンたちの中にトランプ支持者が存在するのか、謎」
その会場内では、ファン同士がフレンドシップ・ブレスレットを交換し合う光景が見られ、後にスウィフトの恋人となるNFLアメリカンフットボールチーム「カンザスシティー・チーフス」の選手、トラヴィス・ケルシーが、この会場で、スウィフト本人にフレンドシップ・ブレスレットを手渡していたとも伝えられている。
サーピーは会場の様子をこう語る。
「多くの米国でのテイラーのコンサートは、白人女性の観客が大多数。はっきり言って人種の多様性はそれほどなく、均質な集団で、その点はあまりいいことではないなと思う。ただ、ファン同士の仲は良く、非常に楽しくて和気あいあいとした安心できる空間であることは確か」
そう語るサーピー自身も白人女性だ。