テイラー・スウィフトが「ハリス支持」を表明したInstagram画像(写真/アフロ)

「テイラーの恋人の選択に多くのトランプ支持者たちが驚愕して真っ青になっていたのが印象的だった。これ以上なくアメリカ的で、愛国的という形容詞さえ似合ってしまうカップルだけに、保守派は自分の領域に、リベラルなテイラーが突然土足で入ってきたように脅威を感じたはず」

 だが、カリフォルニア在住で71歳の歌手のキャシー・ロックスは、やや違った見方をしている。

「テイラーが育った土地は南部のテネシー州。南部の歴史は、壮絶な黒人差別の歴史でもある。1950年代に生まれた私にはその当時の記憶が鮮明にある。そんな中で、テイラーは南部の良心の部分を体現してきた典型例。しかも彼女の歌手としての出発点はカントリー・ミュージックだったことを抜きには語れない」

 保守派と親和性が高いカントリー・ミュージックというジャンルで人気を得て活躍し、その後、世界的なポップスターへとキャリアの変遷を経てきたスウィフト。

 カントリー・ミュージックを聴くのが好きで、公立高校や大学のスポーツ行事に招かれて、アメリカ国歌を観客の前で歌ってきた歌手のロックスにとって、スウィフトがリベラルと保守派の両方にアピールし得る最大の魅力とは、コロナ禍中、コミュニティーのフードバンクに多額の寄付をしたりするなど「自分が得た名声や金銭を人々のために使おうと行動してきた利他行為」だと言う。

 カトリック教徒の両親の元、4人きょうだいと共に育ったロックスは、1970年代に自分が同性愛者であることを告白すると、世間からさまざまな差別を受けた。ストレス解消のためにお酒に稼ぎを注ぎ込んだ結果、「ベビーブーマー世代でありながら不動産を購入しそこない、月1400ドルの賃貸アパートでギャングの襲撃も時には起きるような地域に住んでいる」とジョーク交じりに自虐的に語る。

「だから、今の若い世代が、物価の高騰に悲鳴を上げ、いくら働いても家を買えない苦しい生活で政治的無気力に陥ってしまう気持ちが、手に取るようにわかる」

 ロックスは、ケインやサーピーと同様、白人女性だが、スウィフトのコンサートチケットを買う金銭的余裕はない。だが、スウィフトのドキュメンタリー映像を見て、その中で、過去にスウィフトが、トランプ支持者から批判を浴びせられるとしても、自分の政治信条を明確に主張したいと発言していたことに感化されたと語る。

 また、10代の頃からスウィフトの音楽に浸ってきたというサーピーは「ネット上のリベンジポルノ」というインターネット社会の深刻な問題を題材に司法心理学の研究をし、博士号を取得した。さらに臨床心理の専門家としても、これまで、さまざまなトラウマを抱える患者たちと向き合ってきた。 

 そんな彼女がスウィフトに惹かれるのは「自分で詞を書き、音楽を作ったアルバムの原盤権を失うというかなり精神的につらい目に遭っても、新たにアルバムを録音し直すというど根性を見せ、自分の尊厳を失わなかったところ」だと言い、また「今後、生成AI画像などのフェイク画像で受けた被害に対し、もし彼女が本気で訴訟を起こしたら、今後の重要な判例になり得る闘いをしそうな予感がして、多くの同様の犠牲者を救う法律の制定に繋がるのではないか」と期待もしている。

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