11月の米大統領選に向け、歌手のテイラー・スウィフトが「カマラ・ハリス支持」を表明した。情勢に大きな影響を与えると見られるこの動き、米国のテイラー・ファンはどう受け止めたのかを取材した。
* * *
「この声明、かなり綿密に計算されたタイミングで発表された感じ」
ミシガン大学の4年生で21歳のオリビア・ケインは、テイラー・スウィフトが、9月10日の大統領選ディベートTV放映の直後に、インスタグラム上で「カマラ・ハリス支持」を表明したのを見て、そう感じた。中学生の頃からテイラー・スウィフトの曲を聴いて育ったケインは、今年5月にフランスのパリで行われたスウィフトのコンサートに米国から飛行機に乗って駆けつけたほどの大ファンだ。
ケインは、ドナルド・トランプ陣営が、生成AIによって加工を施されたスウィフトやファンたちの画像をSNS上に掲載し、あたかも、テイラー・スウィフト本人がトランプを支持しているかのようにネット上で演出していたのを見て、驚愕し、憤慨した。テイラー・ファンたちの間では「なぜテイラーはAI加工された自分の顔写真を勝手に利用したトランプ陣営を法廷で訴えないのか。こんな行為をされても沈黙したままで、なぜ反論しないのか」という疑問の声がかなり出ていた。
だが、ケインは、今年8月にオーストリアのウィーンで開催予定だったスウィフトのコンサートが「テロ攻撃計画」を受けて中止になった事件が、全てを変えたのだと分析する。
「自分だけでなく、ファンの命も狙われる可能性があるとわかった以上、テイラーはかつてないレベルで自分の行動に慎重にならざるを得なかったはず。だから批判されても長い間、沈黙していたのだと思う」
そしてハリス支持を表明するのに、最も安全なタイミングを計算した結果、ディベート終了の直後との判断を下したのだろう、と語る。
ボストン在住の臨床心理士で、心理学者でもある35歳のクリス・サーピーも、大のテイラー・ファンだ。「1989」のアルバムが一番好きだと語る。彼女は、スウィフトが「ハリス支持」を表明した24時間以内に、40万人以上が、スウィフトがインスタ上に張ったリンク経由で「有権者登録」手続きをうながす政府サイトを訪れた社会現象を、複雑な気持ちで見つめていた。
「セレブリティが自分のプラットフォームを使って、民主主義をポジティブな方向に動かしていくのは好ましいこと。でもその一方で、セレブに言われなきゃ動かない人がこれだけ多いというのもちょっと悲しい。この切羽詰まった時期に、まだ有権者登録をしていなかった市民がこれだけ多数いた、ということは、もしテイラーが呼びかけなければ、貴重な票が無駄になっていた可能性もあるわけだから」