実況自体は問題がなかったのだが、直後に流れた映像が視聴者に不安をかき立たせる結果を招いたのが、13年のWBC2次ラウンド1回戦、日本対台湾戦だ。
3対3の9回裏からリリーフした牧田和久は、先頭打者に安打を許すが、次打者・陽岱綱の小飛球を果敢にダイビングキャッチ。左手首が不自然に折れ曲がる状態になりながらも、ボールを離さなかった。
牧田は大事をとり、手首の状態を見るため、いったんベンチに下がる。実況アナが「ちょっと心配ですが、ブルペンには杉内(俊哉)がいます」と告げると、画面はブルペンに切り替わり、杉内が生きのいい球をズバッと投げ込むシーンが映し出された。
ところが、直後、杉内が捕手からの返球をポロっとこぼすと、突然中継が途切れ、CMが割って入った。慌てて不都合な場面を隠したような印象を与える間の悪さに、テレビの前の視聴者がちょっとどころではなく、大いに心配させられたのは言うまでもない。
CM後、マウンドに戻った牧田がピンチを切り抜け、日本は延長10回の末、4対3で勝利。杉内も最後を無失点で締めた。
だが、侍ジャパンの勝利とともに、「ちょっと心配ですが~」の実況もファンに長く記憶されることになった。(文・久保田龍雄)
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。