見えづらい育児タスクの一つ「保育園の連絡帳記入」は面倒だが、保育士さんとのやり取りが楽しみでもある。今や貴重な成長記録に(写真:本人提供)
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 育休取得後、時短勤務で復帰した朝日新聞の男性記者は、家事・育児に専念していた生活に仕事が加わることに大きな負荷を感じた。時間に追われる状況から見えた価値観の変化とは。AERA 2024年9月9日号より。

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 1度目の育休を終え、私は社内の会議で同僚らに経験を話す機会をもらった。後輩からの相談も受け、周囲で育休を取る男性がちらほら現れた。

 後輩の野崎智也記者(32)は妻もフルタイム会社員。長女が生まれた後、半年の育休を取った。「それほど長期にとは考えてなかったけど、先輩が5カ月休んでいたので、そんなに取っていいんだ、と。ちょうど離乳食を始める時期で、大変さが理解できてよかったです」

 数カ月以上の育休は、育児の大変さと喜びを体得する上で、欠かせない。前出の厚労省統計では、育休を取った男性のうち2週間未満が約4割を占めた。男性育休は「数」だけでなく「質」も問われている。

 ただ、育休を終えて分かったことが一つある。子育ては育休で終わらない、ということだ。

 翌春、妻は小学校教員として働き始めた。家事・育児のメインを担うべきは教師1年目の妻か、記者17年目の私か。自明の問いだ。私は午前10時~午後4時の短時間勤務へ踏み出した。

 育休中は家事・育児だけが目の前にあったが、時短勤務には別のしんどさを感じた。保育園のお迎えへ急ぎながら、仕事のオンライン会議に参加したり、仕事中に保育園から電話を受けて、発熱した息子を慌てて迎えに行ったり。分離しておきたい「仕事」と「家庭」の領域が侵食し合うとき、心にぐっと負荷がかかった。

「暮らし」を大切にする

 悩む中で温かく感じたのは、子育て経験のある同僚女性らの言葉だ。「1歳の頃って目が離せなくて大変でしょ」「うちも週1回は晩ご飯、冷凍ギョーザにしてますよ」。仕事も育児もうまくいかないとき、「私もそうだよ」と言い合えるだけで救われた。何より、子育てをしながら働く多くの女性が経験してきた苦悩なのだと、気付くことができた。

 1年後にフルタイム勤務に戻したのは、時短で給与がずいぶん減ったから。業務の負担感はさほど減らず、割に合わない気持ちが拭えなかった。

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玉置太郎

玉置太郎

玉置太郎 (たまき・たろう) 1983年、大阪生まれ。2006年に朝日新聞の記者になり、島根、京都での勤務を経て、11年から大阪社会部に所属。日本で暮らす移民との共生をテーマに、取材を続けてきた。17年から2年間休職し、英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で移民と公共政策についての修士課程を修了。

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