水道の蛇口とたわむれる。「『蛇口』という名をつけた人は、水道口から流れ出た水がヘビに見えたのでは」(鈴木)。角度やひねる瞬間を工夫し、作品「蛇口の起源」(2006年)へと昇華した(写真/葛西亜理沙)

 その先生、藤澤伸太郎(80)は述懐する。

「彼は誰からも教わってない、独自のデッサンをしていました。彼の自己流デッサンが好きだった。不安定で、どうなるかわからないデッサン。さわると倒れるような絵。さわりたくなる、絵に参加したくなる。その日は、その魅力がなかった。『不安定さが良いんだから、変えるんじゃない』って」

 鈴木は、このとき藤澤からもらった「不安定」という言葉を、30年近く経った今も大切にする。

「緊張感のあるものを描きたい特性がありました。つねに危うい、でも僕には選択肢がない。デッサンで自分自身を描いていたと思います。それを許してくれた先生が、未知のものを繋(つな)いで本質を描く機会を与えてくれた」(鈴木)

 東京造形大に現役入学し、家具コースに進んだ。演劇の道具などを制作するバイトをしたこともあるが、小説を読みふけり、就職先を決めないまま4年生に。卒業制作と、シヤチハタの運営するデザインコンペの応募作品の制作に明け暮れた。

 シヤチハタに出した作品「ペットボトルの鉛筆削り」は、ふたの部分が鉛筆削りになっている。ペットボトルを筆洗いとして使っていたとき、容器の中に鉛筆を差し込むイメージが頭に浮かんで制作した。透明なペットボトルも、削りかすも、捨てられる寸前とは思えないほど美しかった。作品は「一席」に選ばれる。

「結果を発表する雑誌がアパートに届いたんですよ。『え、なんで届くの?』。開いたら結果発表が載っていて、驚き過ぎて気絶しました」(鈴木)

 賞金は100万円。4月以降、当座の生活のメドがついたことに、鈴木は胸をなでおろした。

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ポエティックで美しい 日本の風土を背負う表現者