不安定なデッサンは自分 緊張感のあるものを描く
鈴木の代表作の一つ「ファスナーの船」は、ラジコン式の船でファスナーの留め具の形状をしている。水面に波紋を描き前進する船をファスナーに見立て、「地球を開く」。飛行機の窓から東京湾を見下ろした時、海を進む船と航跡をそのように見間違えたことから制作し、実際に瀬戸内海などを航行して話題を呼んだ。本物のファスナーと異なるのは、進路が目に見えないことだけだ。
静岡県浜松市の天竜川に近い町で生まれた。幼少時、実家はスーパーマーケットを営み、段ボールや発泡スチロールを使って創作に明け暮れた。
「値段を書く厚手のケント紙も自由に使って良かったんです。紙飛行機をめちゃくちゃ折りました」
同じ折り方なのに、毎回、なぜか飛び方が違う。左右対称にすれば良いというものでもなさそうだ。スーパーの端から端まで、紙飛行機をまっすぐ飛ばす策を夢中で練り続けた。高校の遠足では、「昼休みの遊びに」と、自作の折り畳みバットとボールを持参した。長いものは持っていけないので、段ボール製のバットは釣りざおのように伸縮できるようにした。
「いざ使うとき、すごい発見があったんです。最初から伸ばすよりも、初球を打つ瞬間にシュッて伸ばす。それで打ったら、友だちはびっくり。意表をつきました」
高3。夏期講習に通うも、数学や国語の成績が壊滅的だった鈴木は、ある看板に目がくぎ付けに。
「緑屋美術研究所」
美大・芸大を目指す学生たちの老舗予備校だ。講習最終日の帰り道、友だちを一人で帰らせて引き返し、鈴木は美術研究所へ。それから毎日午後9時まで、デッサンに没頭する日々が続いた。ある夜、いつも通り描いていた鈴木に、先生が歩み寄り、突然、遠州ことばで激怒される。
「こんなデッサン描いちゃダメだに!」
鈴木は静物デッサンで、けん玉に大きなクリップをつけた絵を描いていた。先生は続けた。
「これは君じゃない。不安定なデッサンを描け!」