東京・赤松公園は創作人生が始まった場所。回る遊具で遊ぶ子どもたちの影が鈴木には地球と大陸に見えた(写真/葛西亜理沙)
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 アーティスト、鈴木康広。本来、マイナスにも捉えられる「見間違い」が作品の着想や制作のヒントだとアーティストの鈴木康広は言う。ふだんは見向きもされないもの、日常に当たり前に存在するものが、鈴木の気づきの力で「見立て」の作品として具現化される。鑑賞者は現実と仮想の境界に立ち、自分ならではの新しい気づきを「発見」することができる。

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高く白い筒のてっぺんから吹き出す「まばたきの葉」。その裏表には開いた目と閉じた目が印刷されていて、くるくる舞い落ちると、さながら「葉」がぱちぱち瞬きを繰り返しているように見える。

 身のまわりの何げない事象に着目し、作品へ昇華するアーティスト・鈴木康広(すずきやすひろ・45)。今、展覧会「ただ今、発見しています。」が東京・二子玉川で開かれている。来場者は鑑賞するだけではなく、作品を体験する。たとえば「まばたきの葉」の「木」には「葉」を入れる差し込み口があって、内部のファンで上げられた後、てっぺんから舞い落ちる仕組みだ。来場者は夢中になって「葉」を拾い集めては、差し込み口に入れ続けている。

 作品の根本にあるのは「見立て」だと鈴木は語る。展覧会のパンフレットにはこう書かれている。

「眠れない夜、天井をじーっと眺めていると木目が顔やお化けなど、違うものに見えてきたことはありませんか? このような『これは何かに似ている』という気づき、そして実際に、あるものを別の何かに置き換えて表現することを『見立て』といいます」

 たとえば、彼の作品「りんごの天体観測」は、リンゴの表面にある斑点を眺めているうち、満天の星空のように見えてきたことから、中空のリンゴの模型に穴を開け、内部に光をともし、外部のアクリルドームに光を星のように浮かび上がらせた。リンゴからプラネタリウムに見立てた一例だ。鈴木は語る。

「人の顔の場合は特に、『あ、何々さんだ、あ、違った』ってことが多いんです。みんなは補正能力が高く、瞬時に違うと思うところ、僕はみんなよりも『見間違い』の能力が強いな、ってことがわかってきました」

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不安定なデッサンは自分 緊張感のあるものを描く