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「知の巨人」と呼ばれた著述家の松岡正剛さんが亡くなった。80歳だった。故人を偲び、著書の一部を抜粋して再編集し、その思考の一端を紹介する(この記事は2023年11月3日に配信した内容の再掲です)

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 あらゆる業種で情報発信が行なわれ、ビジネススキルとして必要性が高まっている「編集」。ひとつの言葉から連想できる言葉を伝えていく「連想ゲーム」にその本質が詰まっているというのは、編集工学研究所所長の松岡正剛氏だ。『[増補版]知の編集工学 』 (朝日文庫)から一部を抜粋、再編集して解説する。

「リンゴ→赤→血→けが→スポーツ→野球→ドーム→日本一→桃太郎」。この連鎖で何がおこっているかというと、私たちは「リンゴ」と「赤」という言葉どうしを直接に結びつけているのではなく、〈単語の目録〉と〈イメージの辞書〉と〈ルールの群〉とを動かして、次々に“関係”を繰り出しているのだ。

 そこには、言葉の記号レベルではあらわれてこない「連想的な情報連鎖」がおこっている。「リンゴ」から「赤」へ、「赤」から「血」へ、「血」から「けが」へ連鎖が進むのは、そのつど「受け」と「放ち」のスイッチが点滅したからだ。

 なぜそんなことができるのだろうか。そういうふうにアタマの中にも点滅がおこるからだ。

 誰にも見当のつく例でいうなら、眠りにつく前のベッドの中でなんとなく何かをおもいうかべているとき、私たちは言葉を発しようとしていないのに、次々に言葉やイメージやシーンなどを勝手におもいつく。おかげでなかなか眠れなくなってしまうのだが、そこで何がおこっているのかといえば、〈単語の目録〉と〈イメージの辞書〉が勝手に動き出したのだ。その勝手な動き出しの、もっと過激な自由行動が、夢なのである。夢の中では、たしかに情報連鎖としかいいようのない“関係”の動きが感知されるはずである。これは〈ルールの群〉のほうの箍がゆるんだせいだった。

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松岡正剛

松岡正剛

1944年、京都府生まれ。早稲田大学文学部中退。オブジェマガジン「遊」編集長、東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授などを経て、現在、編集工学研究所所長、イシス編集学校校長、角川武蔵野ミュージアム館長。80年代「編集工学」を創始し、日本文化、経済文化、物語文化、自然科学、生命科学、宇宙、デザイン、意匠図像、文字などの諸分野をまたいで関係性をつなぐ研究に従事。その成果を、様々な企画、編集、クリエイティブに展開。一方、日本文化研究の第一人者として私塾を多数開催。

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遊びの本質は編集にある