朝倉未来は不良であった。けんかに明け暮れ、少年院に入ったこともある。それが「ジ・アウトサイダー」という地下格闘技(暴走族、チーマー、ギャングのリーダーらが多く参加した。キャッチフレーズは「全国のワルよ集まれ」)に参戦して頭角を現し、本格的に格闘技にのめり込み、RIZINにピックアップされる。デビュー戦からかなり厳しいマッチメイクをされたが、これらに勝ち抜いて注目を集めるようになった。もっとも、このような経歴は、こと格闘技に限って言えば、さほど異例なものではない。ただ、朝倉が不良少年であったことは重要である。詳しくは後ほど述べる。

元不良、現トップスターの朝倉が生んだ強力な磁場

 地上波で放送されなくなって以降も、RIZINの興行が人気を博しているのは、SNSを利用した手法が功を奏していることが大きいだろう。主催者のRIZIN側が積極的なプロモーションをYouTubeを中心に仕掛けていることはもちろん、選手たちも自身のチャンネルで思い思いの角度から持論を述べ、それが交流し、巨大なプロモーションにつながっている。そして、このような流れを先陣を切って作ったのが朝倉未来である。

 また、朝倉はブレイキングダウンという格闘技興行団体の社長でもある。強いのか、ただ「俺は強いぜ!」とイキがっているだけなのかが怪しい不良たちを集めて、興行を打っている。RIZINと比べれば、技術的には劣る不良どものバトルだが、これが人気を博し商業的な成功を収めるに至っている。この成功は朝倉未来というキャラクター抜きには考えられない。元不良で地下格闘技出身でいまは富裕層の仲間入りを果たした朝倉未来が中心にいて、朝倉未来がいることで磁場が生じ、そこに不良どもの物語が複数絡まり合って、大きなうねりが生じているのである。

 このようなマルチな才能を発揮する朝倉には、「格闘技に専念していない」という批判が数多く寄せられていた。また、総合格闘技というスポーツを町の不良たちのけんかのレベルにおとしめたという非難もあった。これに対して、朝倉はあまり目立った反論をしていない。おそらく、「仰る通り」と思いつつやっているのだろう。そして、このような批判や非難は、朝倉未来という人間を、そして朝倉未来がなぜここまで人気があるのかを理解できていないから言える正論、もっと言えば、つまらない正論だと僕は考える。

 朝倉未来の周囲に生じている強烈な磁場は、朝倉の特異な欲望が生みだしている。彼の欲望は大きくはふたつある。一つ目は、「自分がどこまで遠くへ行けるか、自分が何者であるかを格闘技を通じて知る」ことだ。これは、どんな競技者にも共通する欲望である。そして、今回の敗戦で彼は自分自身の姿を見たと観念した。だが、重要なのは次だ。二番目の欲望、それは「不良たちのアソシエイションを設立する」ことだ。

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朝倉未来がYouTubeに力を入れるワケ