競泳という種目は、泳ぐのはひとりであり、自分自身との戦いが常である。だが、スタート台に立つまでの間は、多くの人たちの支えがあってこそ。付き合いが長ければ良いとか、名将だから良い、という話ではない。心から信じ合える、言葉の通りの“信頼関係”を多くの人たちと築くことが、ピーキングの最後の仕上げとなるメンタルを整え、自信を持ってスタート台に立つために非常に重要なのだ。

 まさに、北島康介がそうだった。平井コーチに加え、トレーナーやチームメイトたち、関係者含め、非常に多くの人たちとコミュニケーションを取り、信頼関係を築いていた。その人間関係があったからこそ、北島は最後まで北島として戦い抜くことができたのである。

 レースを見ていると、入場時こそ笑顔だったものの、スタート台の前に立った瞬間に顔がこわばる選手も多かった。そうなると、肩に力が入り、力みから思うような泳ぎができなくなる。身体と技の調子が整っていたとしてもだ。今大会は、最後の最後に気持ちを吹っ切って『やるしかない』と思えるメンタル作りためには、何が必要なのかをもう一度考える良い機会になったのではないか。

 最後にもうひとつ。使い古された言葉かもしれないが、『チームが人を作るのではなく人がチームを作る』ということを忘れてはいけない。

 チームのために、チーム一丸となって戦うことは大事。だが、競泳はあくまで個人競技であり、記録競技である。チームメイトと仲良く力を合わせたところで、自分の結果が良くなる競技ではない。つまるところ、最後は自分の努力と実力次第なのである。

 それを忘れてしまっては、チームが強くなることなどあり得ない。

 まずは個々が力をつけること。その力を狙った大会で発揮できるようになること。競泳競技者としての実力がついたとき、はじめてチームとして相乗効果を生み出すことができる。少なくとも、低迷を続けていた日本が好転するきっかけとなったシドニー五輪、アテネ五輪のチームは、そういうチームであった。

 チームの力は、かけ算と言われることが多い。だが、個々の数字が小さいと、掛け合わせたところで足し算とさほど変わらない。個の力を1から2へ、3、4、5と上げていき、それにチームの力が掛け合わされば、大きな力となっていく。

 これから国内では、夏の全国大会の連戦が待っている。パリ五輪を戦った選手たちは、まずは身体と心を休めてほしい。考える時間は、たっぷりある。もう一度、自分たちのレース、そしてレースに向かうまでの道程を見返し、次への一歩を踏み出してほしいと願う。(文・田坂友暁)

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