国歌からも見える流血も美化された「美しい戦い」
女性だから支持率が上がるという要素の方が強そうだが、それでもなお、「女性」であることが最後の最後に有権者の投票を遠ざける可能性があるということを付け加えざるを得ないのも、やはり、大統領は「強く」なくてはいけない、「女は戦争に向いていない」という意識が背景にあるからのように思える。
アメリカで様々なイベントに参加したり、その模様をテレビで見たりすると、必ず聴く歌がある。アメリカ国歌だ。筆者の5週間の米滞在の間にも何回それを耳にしたか数えられないくらいだ。
おそらく世界で一番有名な国歌だろう。民衆が主役に見えるイベントでも、国歌は必ずその節目で主役に取って代わる。アメリカは分断されていると言われるが、この国歌の前ではその分断も覆い隠され、民衆は団結するように見える。
その1番と4番の和訳を引用しよう。
1番
おお、見えるだろうか、
夜明けの薄明かりの中
我々は誇り高く声高に叫ぶ
危難の中、城壁の上に
雄々しく翻(ひるがえ)る
太き縞に輝く星々を我々は目にした
砲弾が赤く光を放ち宙で炸裂する中
我等の旗は夜通し翻っていた
ああ、星条旗はまだたなびいているか?
自由の地 勇者の故郷の上に!
4番
愛する者を戦争の荒廃から
絶えず守り続ける国民であれ
天に救われた土地が
勝利と平和で祝福されんことを願わん
国家を創造し守り賜(たも)うた力を讃えよ
肝に銘せよ 我々の大義とモットーは
「我等の信頼は神の中に有る」ということを
勝利の歓喜の中、星条旗は翻る
自由の地 勇者の故郷の上に!
(アメリカ国歌「星条旗」和訳「世界の民謡・童謡」ウェブサイトサイトから原文のまま引用)
明らかに軍歌だ。この歌が流れると、民衆が主役だったイベントも国家が主役の「国威発揚のための軍国主義の式典」に転換する。
ただし、アメリカの独立のための戦争ではなく、アメリカ市民の自由と人権(自然権)を求めた独立革命という意義を持つ。フランス革命と似ている。
だからこそ、流血が美化されたのだろう。戦いの中には、「美しい戦い」があるのだ。
しかし、一度暴力を肯定するとそこに課されたはずの「正義のため」という制約は簡単に無視されるようになり、それが常態化する。