オードリーみたいに笑い合う2冊(撮影/佐藤創紀)

せやま:ウェブでエッセイを書く時は、主語を大きくせず、「私はこう感じた」と書くように気をつけています。たくさんの方に見ていただける分、誰かを傷つけてしまう可能性はゼロにはなりません。だけど、できるだけ小さくしたいし、「私はこう感じるけど、それが絶対じゃないよ」と思いながら、書いています。

潮井:わかります。私は、お笑い系のエッセイがメインだったのが、書いていくにつれて、深いところを掘り下げるようになって。言い回しがちょっときつくなっているところもありますが、ただの悪口をそのまま書かないように気をつけています。嫌な気持ちだけが残らないように、という思いはあります。

せやま:『置かあば』に、山に置き去りにされるエピソード(「捨て子の生き延び方」)がありましたけど、つらい話になりそうなのに、潮井さんが書くとそうはならないんですよね。

潮井:「ああ、せいせいした」と思ったのは事実なので、反骨精神のたまものでああいうエッセイになりました(笑)。別のテーマで一度、ものすごく重たいものを書いたんです。暗い感情をそのまま吐露するような。その時に、自分へのダメージがすごくて。きちんと自分の中で消化し切ったものを書くほうが、いい文章になると思っています。

せやま:私は、小説は自分のなかにあるものを書くというよりは、うまく言葉にできなかったものの答えを見つけたいと思って書いています。書くことでしか見つけられないものに、書くことで出会っています。

――おふたりのこれからについて教えてください!

潮井:こうしてご縁があり本を出版するという機会をいただきましたが、プロになったという自覚が未だに全くと言っていいほどありません。

 これは本来であれば良くないことなのでしょうけれど、私は本を出版するという節目を経てなお「自分は平凡な人間である」という感性が失われていないことに安堵に近い感情を覚えました。

 だからこのプロ意識の薄さも、私のエッセイには大切な価値観なんだと思います。これからも“エッセイストの潮井エムコ”ではなく、そのままの私として変わらずに日常を過ごしていきたいです。

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試行錯誤を繰り返す先には?