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父の娘に生まれて30年が過ぎたが、父のことを考える度に、人間は多面的で重層的な生き物なのだと、つくづく思い知らされる。父は確かに厳格で真面目で頑固であり、同時にお茶目で陽気で柔軟なのである。
「社会に出ろ」と一喝する父も、フグのぬいぐるみを買ってくる父も、矛盾するようで破綻していない。人間とはやはり不思議なものであり、だからこそ愛おしいものなのだと、父を観察していると思う。そしてそう思いを馳せるたびに、自分自身の中の一見相いれない一面も愛おしく思えるのだ。

退院日は父の日に間に合わなかった。しかし、少し遅ればせながら、ぬいぐるみでもお返しに返そうかと思っている。それはもちろん、実寸大のフグに対抗できるような何かである。

「AERA dot.」鎌田倫子編集長から

 文体と言葉選びのユニークさが光っていて、個人的に好きな作品です。

“厳格とお茶目を高速で反復横跳びする”といったまよさん独特の表現に、クスリと笑えるエピソード。面白いなあ、と素直に思いました。

 父親への愛情も感じました。「人間味あふれる」というのはどういうことか、父親という身近な題材から、まよさんの「人間」観が垣間見えた気がしました。