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 表情や態度によって相手に精神的苦痛を与える「不機嫌ハラスメント」。代表的なものが不機嫌からくるため息で、ハラスメントにあたるという。「フキハラ」の背景には何があるのか。AERA 2024年7月8日号より。

【要確認!】あなたもやってませんか?こんな「ため息」がフキハラに…

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 心理学者で京都橘大学教授の上北朋子さんによると、ため息には心と体の調子を整える効能がある。不安になって呼吸が乱れたり、心拍数が上がったりという状態が続くと生体にとっては負担が増えてくる。

「そこにため息という『呼吸にとってのノイズ』を入れてやることで、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスが整い、ホメオスタシス(恒常性=生体の外から受ける環境の変化にかかわらず、体温など身体の状態を一定に保つ機能)を維持できる。次の行動に向けた意欲の回復効果があります」

 そんなため息が、ハラスメントになる社会。上北さんは「文字通り、息が詰まりますね」と笑う。

「あからさまに嫌がらせのため息は別です。でも思わず出るため息など、すべてのため息を『意識して注意する』必要はないのでは。ため息は、その人がある程度心を開いてリラックスしている状態である表れ。上手に受け止めて、『疲れてるんですか?』など言葉でのコミュニケーションにつなげることが大切ではないでしょうか」

 思考家の佐々木敦さんも、ため息もハラスメントになると聞いてまず浮かぶのは「ここまで来たか」という思いだと言う。

「いまの社会は昔に比べて、ため息をつきたくなる、ため息を我慢できないような状況が一層進んでいる。一方で、意図的にため息を『ついてみせる』ハラスメントも間違いなく存在すると思います。以前は自分の不機嫌や、相手への不信や嫌悪感を他人に対しては隠すことが、良くも悪くも礼儀みたいなところがありました。いまは『自分と自分に関係ある人以外は全部他者』であり、わざとらしくため息をついて相手に不快に思われたってどうでもいい。そんな感覚がある気がします」

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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