ホワイトハウスで中絶に反対する支持者らの前で演説をするトランプ米大統領(当時)=2018年
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 今年2月16日、アラバマ州最高裁は、体外受精(IVF)後に凍結された胚を「子ども」とみなす判決を下した。この判決が、いま全米を震撼させている。その大本にはドナルド・トランプが仕掛けた2022年の‟ちゃぶ台返し”判決がある。

【写真】米最高裁前に集まった人工中絶容認派と反対派の人たち=2021年12月2月

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「中絶」がビッグイシュー

 アメリカの大統領選をめぐる最も大きな争点の一つが、中絶問題であることをご存じだろうか。

「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙は5月20日号で、‟Will young voters ditch Biden over Israel? For most, it’s not a priority.”( 若い有権者はイスラエル問題でバイデンを見捨てるか? 大多数にとってそれは優先事項ではない)というタイトルでこう報じた。

「『大統領選でどのイシューが最重要であるか』という質問に対して、イスラエルではなく、”Abortion is a huge one.”(中絶が大きな問題)と、多くの若者が答えている」

 全米のキャンパスであれほどガザ抗議デモが広がっていても、abortion(中絶)問題が重要と考える若者が多いということだ。

州内のクリニックがIVF停止を発表

 アラバマ州の判決が起こした波紋は大きい。IVFによってできた胚が、過失など何らかの理由で失われた場合、病院側は賠償責任、場合によっては刑事責任を負う可能性があるということを示唆しているためで、州内の3カ所のクリニックはIVFを停止すると発表した。

 トランプは、2月の判決から1週間後の2月23日、IVF治療の支持を表明、アラバマ州議員にIVFへのアクセスが継続してできるように配慮してほしい旨、SNSを通じて呼びかけた。上院共和党もまた、大統領選と同日に行われる連邦議員選に向けて、法案の面で同党の候補者に対してIVF治療を支持するよう、公に表明している。

 一方、民主党のジョー・バイデン政権は、3月7日の一般教書演説で、IVFによる治療を制限するとしたアラバマ州最高裁の判決を痛烈に批判し、生殖の自由を訴えた。さらにこれを大統領選の中心的な争点にすべく、「中絶に加え、生殖医療の機会まで奪われる」と激しい攻勢に出ている。

 判決は、妊娠初期から中絶できないようにする規制を目指す共和党保守派と通底するが、保護対象を胚の段階にまで広げたことで、共和党は強烈な逆風にさらされている。

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大統領選の大きな論点