中絶の権利を認めた過去の判決を覆した米連邦最高裁の判断を受け、最高裁前に集まる大勢の人々=2022年6月24日午前、米ワシントン

両方から批判が噴出

 2022年6月の判決は、妊娠15週以降の人工妊娠中絶を禁じたミシシッピ州法を合憲とした判決だが、保守が強いアーカンソー、アイダホ、ケンタッキー、ルイジアナなど13の州ではすでに、連邦最高裁がロー対ウェイド判決を覆せば、自動的に中絶を禁止する、いわゆるトリガー法が成立していたので、中絶が即禁止された。

 たとえば、ルイジアナ州のトリガー法は、強姦や近親相姦による妊娠での中絶も認めず、さらに中絶を行った医師に対しては1年から10年の懲役刑、妊娠15週以降の場合には最長15年の懲役刑が科される。同州では中絶を「殺人」に分類し、中絶した女性を「殺人罪」で起訴できるという。

 トランプは今年4月8日、中絶の権利については「各州が決定すべき」とする声明を発表した。だが、保守・共和党からは、妊娠15週以降の中絶を連邦レベルで禁止することを期待する声が出ていたため、この声明に対しては保守派とリベラル派の両方から批判が噴出している。

凍結胚を破棄したら殺人?

 ジョンズ・ホプキンズ大学の生命倫理研究所のジェイミー・スミス教授もこう指摘する。

「もしヒトの胚が、子どもとしての法的な権利を持つというのなら、それを何年も凍結することは、child neglect(ネグレクト)罪になる可能性があります。凍結胚は普通余分につくり、子どもができてそれ以上子どもがいらない場合、破棄されますが、それはmanslaughter(故殺:過失からでなく、故意に人を殺すこと)罪になる可能性があります」

 同大学で生殖に関する法律と政策を専門にするジョアン・ローゼン教授は、「アラバマ州最高裁の判決の極端さはinflection point(変曲点)になる」と話す。

「曲線の変わり目でどちらの方向に行くかに関係なく、この判決はかなりの不確実性と不安とカオスをもたらしました。生殖に関する権利は大統領選の中心に位置するので、次に何が起きるかまったくわかりません」

 秋に行われる米大統領選では、バイデンとトランプの大接戦になるとみられる。

 人工妊娠中絶やIVFに関して、迂闊な発言をすれば、命取りになりかねない。全米は固唾をのんで、両陣営の動向を見守っている。(文中一部敬称略)

(ジャーナリスト 大野和基)

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