本が読めなかった苦しい日々をはじめ、本に対するあこがれや読めるようになった時の喜び、そして現在も忙しく仕事や子育てをしながら読書する日常などを描く37篇のエッセイを収録。書き手であると同時に出版社を営む編集者でもある著者の、「長い」ものを読む、そして「長く」読んできた記録

「若い時は自分の中がまっさらなので、読書が染み込むように入っていきます。年齢を重ねると人生経験がジャマをして、『いやいや、恋愛ってこんなものじゃない!』と思ってしまったりする(笑)。私より年長でたくさん読んできた方のなかに、時々、まったく無名の若い書き手の作品に素直に感動したりする方がいますが、そういうのは読書の達人だと思います」

 島田さんはひとり出版社・夏葉社を営む編集者でもある。夏葉社では、大手出版社では出ないような知名度の高くない作家の作品や、忘れられた名作の復刊、そして現役の書き手でも、従来とは少しアプローチの違うオルタナティブな本などを刊行している。

「夏葉社の本は親しみやすいと思ってくださる方がいらして、思うにそれは私がもともと文学好きの人間ではないから、なのかもしれません。幼い頃から物語を読みふけるような、根っからの文学少年少女と違って、私は完全に後天的な読者です。でも、だからこそ、『こういう本じゃないとダメ』とハードルを上げることなく、柔軟に考えて本が作れるのかもしれません」

 本書を読むと、素直に「自分も長編、トライしてみようか」という気持ちになってくる。そして若い人はもちろんだが、若くなくても「後天的な」読者なら、「自分はそれほどたくさん読んできたわけではない」という謙虚な気持ちを持って、急ぐことなく、日々少しずつ、楽しく読めるのではないだろうか。

(ライター・北條一浩)

AERA 2024年6月24日号

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