AERA 2024年6月17日号「医師676人のリアル」特集より

「滅茶苦茶な情報がネットで出回ることは昔よりなくなりました。ネット上の情報が正しくても、査読された論文であっても、患者さんが誤解していることがあります。反論しているつもりなのかもしれませんが、根本的に全く違う指摘をしていて、『そもそもその話は間違っています』みたいな、治療と関係ない無駄な説明をしなくてはならなくなるんですね」

 説明をめぐる医師と患者のギャップは他にもある。例えば、人間ドック。南淵医師は言う。

「例えば血液検査をしたとき、『肝臓の数値は正常値です』と言われたら、患者さんは肝臓は大丈夫だと受け取ります。でも、医者は患者の体に異常がないとは言っていないのです。代表的な検査の数値の異常はない、と言っているだけで、肝臓の本当の機能を調べるなら、他の数値も測らないといけない」

患者の話を聞かぬ医師

 心電図だけで「心臓は異常なし」と言われたのに、直後に心筋梗塞になった、という話はよく聞くと南淵医師。

「検査というのは、一時期の一面を見ているにすぎません。医者は限定的な情報に対して、推論しているのです。だから、ある時点の検査で異常がなくても、異常なしと断言できません。誰しも自分の健康に心配は尽きません。冷静で客観的であるべきです」

 説明を理解してもらえない理由の一つには、高齢化があるだろう。

「理解力が低下している高齢者の増加」(皮膚科、50代、女性)

 家庭医の細田俊樹医師(千葉県・あまが台ファミリークリニック院長、48)は言う。

「認知症の方は言われたことを忘れる傾向がありますし、難聴の方には耳元でしゃべらないとコミュニケーションが取れないので、難しさを感じますが、ある程度仕方ないと思います」

 ただ、認知症、難聴の人に限らず、年齢を問わず、「話を理解しない患者」はいる。それには理由があるという。

「そもそも医師が患者さんの不安や希望、病気の思い当たる原因などを聞いていないことがあります」(細田医師)

 例えば、片頭痛を訴える患者は、単に薬をほしいだけかもしれないし、病気の原因を探りたいと思っているかもしれない。親が脳出血で亡くなったこともあって、CT検査をしてほしいと思う人はいる。その不安に気づかず、「緊張性頭痛でしょう」と言われたら、患者は納得しない。「でも……」と、検査を求める。

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