感想戦で叡王戦第4局を振り返る藤井聡太叡王(左)と挑戦者の伊藤匠七段=2024年5月31日、千葉県柏市
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 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年6月17日号より。

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 カド番に追い込まれた王者はいつもの通り、震えることなく地力を発揮した。

 藤井聡太叡王(八冠)に伊藤匠七段が挑戦する叡王戦五番勝負の第4局は5月31日、千葉県柏市でおこなわれ、132手で藤井叡王が勝利。シリーズ成績を2勝2敗としてカド番をしのぎ、叡王位のゆくえは第5局へと持ち越された。

 伊藤にとっても、初のタイトル獲得がかかる大一番だった。伊藤が先手番で現代最前線の角換わりを選んだのに対して、序盤の複雑な駆け引きのあと、後手の藤井は積極的に攻めてポイントをあげる。藤井よしを示す評価値のグラフはゆるやかに藤井よしの方に傾き続ける。終わってみれば、藤井の完勝だった。

「ひとまず最終局に持ち込めたのはよかったですけど、また次も大事な一局になるので、そちらに向けてもしっかり状態を整えていければと思います」(藤井)

「次局も注目される舞台だと思うので、しっかりとよい内容の将棋を指せるよう全力を尽くしたいと思います」(伊藤)

 運命の第5局は6月20日におこなわれる。

「次が持将棋がなければ、最終局になるので……」

 藤井がそう語ると、現地に詰めかけたファンから笑いが起きた。藤井−伊藤戦では、今年2月の棋王戦五番勝負第1局で、珍しい持将棋引き分けが生じている。

 2020年の叡王戦は七番勝負で永瀬拓矢叡王と豊島将之挑戦者(肩書はいずれも当時)が対戦。途中で2回の持将棋と1回の千日手が生じ、延長戦の第9局(実質的には第10局)で決着がついた。

 将棋では、両対局者が全力を尽くして戦うと、盤上では奇跡的な局面が現れ、思いもよらぬドラマが生まれてきた。今期も舞台は整った。藤井か伊藤、どちらが勝つにせよ、歴史に残る名局、名勝負が期待できそうだ。(ライター・松本博文)

AERA 2024年6月17日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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