地域にある3軒の豆腐屋さんを回っておからを調達し、自宅で試行錯誤を重ねた。時はコロナ禍の真っただ中。外出して豆腐屋をめぐること、口に入るものを作ることを両親に心配もされたが、食品ロスを減らしたいという使命感が勝り、理解を得た。調理を続けるあまりオーブンが壊れることもあったが、1カ月の開発期間で完成にこぎつけた。
21年から月に1度、縁のあった牧場のマルシェに出品。1回の出品におからを約6キロ使用し、大小の瓶でそれぞれ千円と500円で販売した。環境にも配慮し、リサイクル可能な瓶での提供か容器の持ち込みによる量り売りで、ごみも出ない。利益は20~30%ほどで、すべてこども食堂に寄付している。
見える範囲で少しでも
「食品ロスを調べると、子どもの貧困が避けられないテーマとして必ずあります。小学校1クラス35人とすれば5人が当てはまる。ユネスコのような国際機関とまではいかずとも、見える範囲で少しでも解決に向かったらと、売り上げの寄付については最初から決めていました」
食材や瓶の調達、販売、寄付まですべて一人でこなし、この取り組みが評価され、環境大臣賞個人部門を受賞した。
食品ロスの課題に行政や企業は積極的に取り組んでいるが、「SDGs」という言葉ばかりが先走っていると感じている。環境問題というより、日々の暮らしの問題。そう目線を持っていければ課題が少しずつひもとけるのではないか。
今、新たな取り組みも始めている。今年2月からは、食について地域で考える場所を作ろうと、おからのグラノーラの活動を通してつながった人たちの助けも借りて「森のポスト」というパンケーキ店を東京都小平市に開いた。営業は毎週土曜日だけだが、すべて一人で切り盛りする。バターミルク生地と全粒粉とおからを使った生地から選べ、予約があれば完全菜食主義のヴィーガンにも対応する。
大事にしているのは人とのつながりだ。誰でも、いつでも立ち寄ってほしいという思いから、客からメッセージとパンケーキ代金を預かり、他の誰かにパンケーキを無料で提供する「めぐるポスト」というサービスも取り入れ、その輪を広げる。
「私自身が社会を変えたいというより、地道な活動を続けるうちに人と人がつながり、賛同者が増えていって、世の中の仕組みが自然と変わっていたらいい」
(編集部・秦正理)
※AERA 2024年6月10日号より抜粋