真面目に仕事に向き合い、キャリアを積んで管理職になった有能な女性たち。けれど、会社を去っていく人もいる。辞めた女性たちの胸のうちは(撮影/写真映像部・上田泰世)
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 キャリアを積み上げて管理職になったものの、子育てとの両立をあきらめて退職する女性がいる。会社を去った30代女性の胸中とは。AERA 2024年6月10日号より。

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「ワーキングマザーのロールモデルになってほしい。出産後は早く戻って活躍して」

 東京都内の大手セキュリティー会社で働いていた女性は30代後半で出産する時、男性の上司からそう声をかけられた。

 妊娠がわかったのは管理職になってすぐの頃。育休中にも一度呼び出され、「大変だから、早く戻ってほしい」と言われた。上司からの期待を感じ、出産から1年を待たずに復職した。

 だが、そこから始まった日々は想像以上に大変だった。出産前は毎日のように残業し、「自分のパワーとリソース」のほぼ全てを仕事に注いでいたが、子どもの夜泣きなどで寝不足が続き、体力は大きく落ちていた。家事・育児をこなさなければならないため、仕事にかけられる時間も激減。仕事の質が落ちたと感じていたところに、上司から言われたのは「がっかりした」という言葉だったという。

 子どもは1歳を過ぎると保育園に行きたがらないことが増え、自分から引き剥がすようにして保育園に預けることにも疲弊した。

 管理職から外してもらい、子どもが大きくなるまでは時短勤務にするという方法もないわけではなかった。ただ、育児との両立の難しさについて上司に伝えると「普通のお母さんみたいなこと言うなよ」と返された。“ワーキングマザー”をいったいなんだと思っていたのだろう。専業主婦の妻を持つ上司に自分の気持ちと状況を理解してもらうのは難しいと感じた。

「子育てとの両立は無理。もういいかな」

 そんな思いがよぎった女性は、産休・育休中、仕事一筋ではない生き方をしている人たちに出会ったことにも影響を受け、退職を決めた。

「ここまで積み上げてきたキャリアを手放すのは惜しい」「管理職になれない人のほうが多いのに……」。後ろ髪をひかれる思いは強かったが、最後は出社することさえ苦痛だったという。

 女性は現在、個人事業主として働いている。退職したことに後悔はないものの、「あのまま頑張っていたら、どうなってたかな」との思いが頭をよぎることはあるという。(フリーランス記者・山本奈朱香)

AERA 2024年6月10日号より

AERA 2024年6月10日号より抜粋

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