損害保険ジャパンの名をどん底まで落としめた旧ビッグモーターによる不正請求問題。同業者の助言に接しながら、なぜ名門損保はブレーキを踏めなかったのか。不正情報がどうやってトップの耳に入り、その後、社内ではどのような対応がなされたのか。問題の顚末を詳細に描いた近刊『損保の闇 生保の裏』(朝日新書)から一部を抜粋して解説する。
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2022年5月16日夜、東京・新橋の料亭「松山」に損保ジャパン社長の白川儀一はいた。政財界の著名人が訪れる1949年創業の老舗料亭でこの日、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険の2社長とそろって、取引先の大手化粧品メーカー首脳を接待していた。
3時間ほどで宴は終わり、もてなした相手は帰って行った。
「ちょっといいですか」
参加者の一人、三井住友海上社長の舩曵真一郎から、帰ろうとしていた白川が声をかけられる。「タバコが吸いたいので……」。ヘビースモーカーで知られる白川は振り切って外に出ようとしたが、「ここで吸えばいいじゃないか」と引き留められた。
「本腰を入れないといけない」
舩曵の隣には東京海上社長の広瀬伸一。実は、松山に先に就いていた二人は事前にすり合わせていたのだ。タバコに火をつけた白川に対し、二人はこう切り出した。
「ビッグモーターの問題、本腰を入れないといけない」
すでにこの頃、BMは大きな疑惑の渦中にいた。従業員の内部告発が損保各社に共有されており、放置すれば損保の責任も問われかねなかった。
3社で一丸となる必要があるが、損保ジャパンが消極的だ。こんな情報が、東京海上と三井住友海上の両トップの耳に入っていた。
トップ同士が直接会える機会は多くない。
「きちんと対応しなければ大変なことになる」
こう迫る広瀬と舩曵に対し、タバコをくゆらす白川は語ったという。
「全然、知りませんでした」