だが、屈託のない笑顔でこう話す。
「これからそう感じる日がくるのかもしれませんが、今はないですね。以前メディアに取り上げていただいたときには、SNSで『お飾りだろう』と書かれたこともあります。でも、私が注目されることで会社のみんながよろこんでくれるなら、飾りでもいいかなって思っています」
言葉の端々から、地に足をつけ、一歩ずつ着実に進もうという意思が伝わってくる。社長の打診があったときも、楽しみに感じたことは覚えているが、誰かに話した記憶はあまりないという。
「実家に暮らしていますが、親にもすぐには言いませんでした。友達にも最近やっと言ったぐらいなんです」
巷のインフルエンサー社長のようにSNSを活用するわけでもない。社長として発信したほうがいいと思いつつ、なかなかできないでいる。
そんな等身大さがある一方で、日々のルーティンはがらりと変わった。朝は各店舗から上がる日報に目を通すことから始まり、ミーティングにも顔を出したり、店舗を巡回したり。諸沢さんを“後継者指名”した西牧さんに同行し、その振る舞いを学ぶこともある。「寝たらすぐに忘れるタイプ」だから、教わったことを覚えるために会話を録音して、何度も聞き返す。
当面の目標は「西牧さんを完コピすること」だ。
「就任後3年は西牧が並走してくれるので、今年は50%、次の年は75%って近づきたい。今すぐに新しい風を吹かせたいという思いはないんです」
4月中旬、諸沢さんに会いにココイチの店舗を訪れた。社長就任を2週間後に控えても、プレッシャーよりワクワクが大きいという。
「知らないことが多すぎるので、大丈夫かなと思うことはあります。でも、私の苦手なことは、それが得意な人がフォローしてくれる。最初は『一人でやらなきゃ』ってプレッシャーを感じていたけれど、今はみんなで作りあえたらいいなって考えに切り替わっています」
(編集部・福井しほ)
※AERA 2024年5月13日号