児童8人が死亡した2001年の大阪教育大付属池田小学校での殺傷事件などをきっかけに、学校などに配備されるようになった「さすまた」。
2011年には愛知県の小学校に包丁を持った男が侵入し、校長ら3人がさすまたを使って取り押さえることに成功した事例もあったが、数人がかりで制圧することが前提で、さらに相手が暴れた場合には腕力が必要になることなど、実用性や使い方に不安を抱く声が少なくなかった。佐野社長が出向いた際、県警の担当者も、そんな「弱点」に頭を悩ませていたのだった。
「歴史資料館などに展示されている昔のさすまたを見ると、U字の金具にとげとげがついているんです。捕まったら痛くて暴れられないし、昔は着物にとげがからんで捕まえやすかったのでしょう。ところが、現代のさすまたは、捕まえられる側にもけがを負わせないように、つるつるになっています。犯人が手でつかんではねのけたり、暴れられたりした経験が警察にもあったようです」(佐野社長)
県警が示した「難題」
佐野社長が県警側から示されたのは、3つの「難題」だった。
(1)捕まえる側だけではなく、捕まえられる側にもけがをさせないこと。
(2)逮捕術などの訓練を受けていない人でも、安全かつ簡単に相手を捕まえられること。
(3)捕まえた後に警官が到着するまで、逃げられないようにすること。
「こんな感じのものを作ってほしい」。そう言って県警の担当者が見せたのは、腕などに巻き付ける交通安全の反射バンドだった。「板バネ」と呼ばれる金属板でできており、バネの力で簡単に巻き付き、なおかつはずれにくいものだ。
確かに、バネの力で勝手に犯人に巻き付き、動きを封じることができるバンドならば、女性でも使えそうだし、暴れられてけがを負わされるリスクも小さいかもしれない。
だが……。