「われわれも自動車部品で板バネを使ってきましたから、その発想は分かります。ただ、腕に巻き付けるだけの小さな板バネと、向かってくる人間の体を拘束できるほどの大きさの板バネでは、話がまったく違います。体を拘束するためには、板バネがきれいに巻き付く必要がありますが、大きくなればなるほど、ずれが生じやすくなりますからね。
これって正直、ドラえもんの世界の道具なんじゃないか、まいったなぁと思ったのが正直なところでした」
チャレンジするか否か。佐野社長は悩んだ。
当時の同社は、東日本大震災の後に自動車部品の需要が急激に落ち込み、社内の雰囲気は暗くなっていた。「はっきり言って、暇でした」と佐野社長。
そんな状況の会社に舞い込んだ、言わば「お国の仕事」。それも、人々の安全な暮らしに役立つ製品を作ってほしいと依頼される機会など、めったにあるものではない。
県警から示された開発期限は、わずか3カ月。「自動車部品だって3~4年かけて開発する」(佐野社長)ほどの“むちゃぶり”だったが、最終的にチャレンジする決断をした。
「むちゃぶり」はさらに
とはいえゼロからの開発スタート。まずは、くるくる巻き付く板バネづくりのヒントになるノウハウを持っていそうな企業に足を運んだが、次々と門前払いをくらった。人間を拘束するほどの厚みや大きさがある板バネの需要自体がないのだ。
だが、幸運にも同じ栃木県内で「ぜんまいバネ」の構造に精通した人物に出会えたことで、光明が差し込んだ。社員と一緒に“弟子入り”させてもらい、バネづくりの基礎を学ぶことができた。そして、板バネを成形する機械を自社で作り、「ケルベロス」の試作品の完成までこぎつけることができた。
しかし、県警に試作品を見せに行った際に待っていたのは、さらなる“むちゃぶり”だった。
佐野社長たちは、板バネは静かに巻き付き、衝撃も小さいほうがいいという発想で開発していたが、そこには「常識」という盲点があった。犯人からすると、「やられた」という気持ちにならないというのだ。