公立小中学校の教員6人に1人は勤務時間改ざんを求められたことがある。エピソードと詳細なデータを交え、教育現場を取り巻く事情を、『何が教師を壊すのか』(朝日新書)から一部を抜粋して解説する。
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勤務時間の改ざんが横行
残業時間を少なく見せかけるため、校長や教頭といった管理職が日々の勤務時間の記録を書き換えさせたり、教員本人が偽ったりすることが横行している。
ある日の放課後、北陸地方の公立小学校で、若手の女性教諭が学校備え付けのパソコンに向かっていた。表計算ソフトにまとめて勤務時間を入力する作業。ある程度進めると、月の時間外労働時間が「過労死ライン」とされる80時間を上回ることに気付いた。
「超えるかもしれません」
女性は、少し離れた席にいる管理職にそう声をかけた。働き方改革で、この管理職から80時間を超える場合は報告するよう言われていたためだ。管理職は席を立ち、近づいてきてパソコン画面をのぞき込んだ。そしてこう言った。
「全部8時からにしちゃえ」
女性は毎朝、午前8時よりも少し前に出勤するのが習慣だった。これを一律、8時に遅らせて少し勤務時間を削る。そんな提案だと受け止めた。親身になってアドバイスしているという口ぶりだった。女性は自ら、出勤時間を8時に書き換えた。
2019年に文部科学省が出したガイドラインで、教員の時間外労働は「月45時間、年間360時間」と上限が決まった。特別な場合でも、複数月の平均が「過労死ライン」とされる80時間を超えないようにすることになった。それから常日頃、80時間を超えないよう管理職から指導されるようになった。「精神がおかしいと思われて病院に行くことになります」。当人が不利益を受けるという理屈で、何度も念を押された。
教員の仕事にかける時間は、授業準備など個人の裁量で大きく伸縮する部分が少なくない。そのため、最近まで勤務時間を把握する習慣がなかった学校もある。