平安文学研究者の山本淳子氏
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大河ドラマ光る君へ』でも描かれているように、貴族の間でも大きな格差が存在した平安時代。『源氏物語』の作者・紫式部もその上流貴族たちのきらびやかな生活に憧れたと推測するのは、平安文学研究者の山本淳子氏だ。著書『平安人の心で「源氏物語」を読む』(朝日選書)から一部を抜粋、再編集し、その理由を解説する。

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祖先はセレブだった紫式部

『源氏物語』の作者、紫式部。彼女は貴族の中でも「受領(ずりょう)階級」という階級に属するといわれることがある。それは正しいが、すべてではない。「受領」とは地方に下った国守(こくしゅ)のことで、確かに彼女の父親は越前守(えちぜんのかみ)や越後守(えちごのかみ)だった。だが三代前、紫式部の曽祖父までさかのぼれば、何と彼らは公卿(くぎょう)。現代の内閣閣僚にあたる人々だ。紫式部の祖先は立派なセレブだったのだ。

 国司は朝廷から派遣されて地方の各国に赴き、その国を治める。赴任先では権力の頂点にいるといってよい。だが朝廷全体における地位を示す位階は、治める国にもよるが、六位からせいぜい四位(しい)程度だ。「ここから上が貴族」という五位のラインを挟んで上下に位置し、決して上流貴族とはいえない。だからこそ、特有の自由な気風や上昇志向を持ち、成り金的ないっぽう、多少の哀愁も漂う。

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山本淳子

山本淳子

山本淳子(やまもと・じゅんこ) 1960年、金沢市生まれ。平安文学研究者。京都大学文学部卒業。石川県立金沢辰巳丘高校教諭などを経て、99年、京都大学大学院人間・環境学研究科修了、博士号取得(人間・環境学)。現在、京都先端科学大学人文学部教授。2007年、『源氏物語の時代』(朝日選書)で第29回サントリー学芸賞受賞。15年、『平安人の心で「源氏物語」を読む』(朝日選書)で第3回古代歴史文化賞優秀作品賞受賞。選定委員に「登場人物たちの背景にある社会について、歴史学的にみて的確で、(中略)読者に源氏物語を読みたくなるきっかけを与える」と評された。17年、『枕草子のたくらみ』(朝日選書)を出版。各メディアで平安文学を解説。近著に『道長ものがたり』(朝日選書)など著書多数。

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