ズボンを下ろすと、医師は驚く様子もなく「ああ、マダニですね」と言った。ピンセットでマダニの胴体をつまむと、手慣れた様子で皮膚から外し、小さな瓶の中に放り込んだ。

「最近、キャンプに行ってマダニにやられる人が多いんですよ」

 そう言って医師が瓶を揺らすと、底に沈んでいたたくさんのマダニが溶液の中を舞った。たっぷりと血を吸ったのか、小豆みたいなやつもいた。

写真はイメージです(gettyimages)
写真はイメージです(gettyimages)

「死亡のおそれ」もある感染症

 いま厚生労働省はマダニ対策を強く呼びかけている。見た目の気味悪さや吸血の恐ろしさ以上に、日本紅斑熱、ライム病、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)など、さまざまな感染症を媒介することが問題となっているからだ。

 特に重症化すると死亡することもあるSFTSは治療薬やワクチンはなく、対症療法しかない。SFTSは2013年に国内(山口県)で初報告以来、年々報告数は増加し、東日本にも広まっている。

 では、マダニはどんな場所に生息しているのか?

 厚労省によると、マダニはシカやイノシシ、野ウサギなどの野生動物が出没する環境に多く生息しているという。民家の裏山にもいる。もちろん、山あいのキャンプ場も要注意だ。

 草むらなどに潜んだマダニは通りかかった人間に跳びつく。身を守るには服装選びが大切で、腕や足、首など、肌を露出しないこと。当然のことながら、半ズボンやサンダル履きは不適当である。

 虫よけ剤を使用すると、マダニの付着数を減らす効果があり、有効成分「ディート」「イカリジン」などが配合されたものが市販されている。ただし、虫よけ剤だけでは完全にマダニを防げないので、服装などと組み合わせて対策するとよい。

 では、マダニにかまれた場合はどう対処すればいいのか?

 先にも書いたが、吸血中のマダニを無理に引き抜こうとすると、その一部が皮膚に残り、化膿するおそれがある。医療機関(皮膚科)で除去、洗浄してもらうと安心だ。その後、数週間程度は体調の変化に注意し、発熱などの症状があった場合は再度、医療機関を受診してほしいという。

ものすごい勢いで首筋まで…

 マダニ同様に、人間の血を吸うやっかいな生きものもいる。

 ヤマビルだ。

 以前、筆者は「森を歩いていたら、ヤマビルが雨のように降ってきた」という話を聞き、震え上がったことがある。

 ところが、「それは俗説です。ヤマビルが木から落ちてくることはありません」と、写真家の三宅岳さんは言う。

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