蜜璃の苦悩

 もともと蜜璃には、家族・親しい人物が鬼の被害にあった様子はない。裕福な家庭に生まれ、家族仲も良く、一見すると彼女が鬼狩りの剣士になる必然性は無いように見える。明るく朗らかな人柄、愛らしい顔立ち、恵まれた身体……しかし、彼女は見合い相手の男から、「おかしな頭の色」「君と結婚できるのなんてか猪か牛くらいでしょう」(14巻)とひどい言葉をぶつけられたことがあった。常人の密度の8倍というすさまじい筋力、それを維持するための食欲。最悪の思い出となったお見合い以降、彼女は自分の特性を隠そうとするが、それにも思い悩む。

「いっぱい食べるのも 力が強いのも 髪の毛も 全部私なのに 私は私じゃない振りするの? 私が私のままできること 人の役に立てることあるんじゃないかな?」(甘露寺蜜璃/14巻・123話)

 そうして蜜璃が選んだのは、命をかけて他者を助ける、鬼殺隊の剣士としての道だった。彼女にとって「自分らしく生きること」とは、誰かのために戦うことなのだ。

蜜璃の強い意志、煉獄の遺志

 蜜璃は「か弱き人たち」を守るために、恐ろしい鬼の前に立ち続ける。「お父さん お母さん 私を丈夫に産んでくれてありがとう」と感謝しながら、その一方で、自分の身を投げ出し「死の覚悟」をにじませる。煉獄杏寿郎の生きざまと、彼女の姿がときおり重なる。彼らが剣士として生きる理由には共通点がある。彼女の師である煉獄も、自分が強いからこそ弱い者を守るのだと、最期までその意志を貫き通した。

「ここにいる者は誰も死なせない!!」(煉獄杏寿郎/8巻・64話)

「任せといて みんな私が守るからね」(甘露寺蜜璃/14巻・123話)

 煉獄も蜜璃も、憎しみのために日輪刀を振るうことはない。彼らの戦いの動機は、常に「他者を守ること」にある。

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「恋の呼吸」と「炎の呼吸」の共通点