「ふつうの女の子」としての夢

 そして、彼女は自分の夢にも正直だった。鬼殺隊に入った理由を「添い遂げる殿方を見つけるためなの!!」と頬を赤らめる蜜璃は、“ふつう”の少女だ。命のやりとりの日々でも、周囲に優しく、よく笑う。彼女の「恋への憧れ」は、煉獄が口にした「心を燃やせ」というあの言葉同様の熱い思いだ。「自分らしく生きる」「他者を生かす」ことへの強い肯定の力を、蜜璃は自分の戦いの原動力へと変えていく。

「恋の呼吸」と「炎の呼吸」はこのように「情熱」を起点としているところで共通しているのだが、鬼への個人的な恨みを原動力としない彼らが、地獄のような戦場で立ち続けていられる理由に、彼らの「心」の要素を無視して語ることはできない。人間が鬼へと変ずる「鬼滅の世界」において、「人の心を守る」ことが何よりも大切になっていく。鬼化の状態の変化は「心と感情」に密接に関わっているからだ。

「恋」を知らない蜜璃が「愛」を知る

 刀鍛冶の里の戦いで、炭治郎たちが蜜璃のことを「希望の光だ!!」と言う場面があった。この言葉で蜜璃はさらに強くなった。愛情深い彼女は、他人を守ることで、秘めた強さを発揮するようになる。

 剣士になる前、かつて彼女はこんな弱音をつぶやいた。

「私のままの私が居られる場所ってこの世にないの? 私のこと好きになってくれる人はいないの?」(甘露寺蜜璃/14巻・123話)

 しかし、これから後、恋に憧れていた蜜璃は、剣士として懸命に戦い、自分らしく生きる中で、「本当の恋」を知っていく。その恋が愛情に変わる時、彼女の強さは完成し、多くの人の命を救うことになる。

 今後の蜜璃の活躍を、「恋の呼吸」の多彩な技が映像で見られることを、鬼滅ファンは心待ちにしているはずだ。恋柱・甘露寺蜜璃は強い。蜜璃が戦うシーンを通して、煉獄杏寿郎が伝えた「熱い思い」を、私たちはまた目にすることができる。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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