天皇陛下と雅子さまのもうひとつの変化
さらに変化がもうひとつあり、それは「姿勢の低さ」だと河西氏は指摘する。
「今回の被災地訪問では、天皇、皇后両陛下の姿勢が被災者よりも低かったときがありました。避難先の段ボールベッドやソファーに座っている被災者に向かって、天皇、皇后両陛下は膝をつき、さらにかがまれていたのが印象的でした。昔は、天皇陛下がかがんだことですら色々と言われましたが、もっと姿勢が低いという感じです」
被災者のそばに膝をついて言葉を交わすことは、現在の上皇さまが皇太子時代に始められたことだ。
当初は「皇室の威厳を損なう」などと否定的な声があったという。しかし、その姿は時代とともに共感を広げ、現在では定着した感じでもある。
そして天皇陛下と雅子さまは、上皇ご夫妻の被災地での振る舞いを踏襲し、令和になってさらに姿勢を低くされているようだ。
訪問された穴水町の避難所でも、天皇陛下は体を丸くかがめるようにして避難者に話しかけられた。その姿勢にそろえようとするかのように雅子さまも、さらにグッと腰を低く落とされたのが印象的だった。
被災地訪問の役割
被災者のそばに膝をついて対話することだけでなく、被災地訪問そのものが、上皇さまから天皇陛下へと受け継がれたものだと河西氏は話す。
「『国民と苦楽を共にする』というのが天皇の務めである、と上皇陛下はおっしゃっていて、いまの天皇陛下も皇太子時代からその姿を見てこられていた。
いかなるときも苦楽を共にする気持ちから被災地訪問があるわけですが、古代の天皇は現地に出向いたわけではなく、祈りを捧げたり、写経をしたりしていました。
現在の上皇陛下は、直接的に国民と接するということが大事だとされ、天皇がやるべき仕事のひとつだと考えてこられたのです」
上皇さまから天皇陛下へ引き継がれ、そして変化していった被災地訪問の役割は、時代が変われど大きいという。
「天皇陛下と雅子さまが被災地訪問されることで、必ず報道されます。現地の状態が映し出されることで、被災地にまだ問題が残っていることに私たちが気付かされるというのは大切なことだと思います」
(AERA dot.編集部・太田裕子)