※写真はイメージです。本文とは関係ありません(gettyimages)

 かわさんが、仕事で大切にしていることはなんですか? 給料ですか? 安定ですか?将来性ですか? それとも「身だしなみ規定」が厳しくないことですか?

 僕は、大学時代、朝の満員電車に乗った時、「こんな経験を毎日するのは嫌だ」と心底思いました。苦しんでいるサラリーマンの人達には申し訳ないのですが、僕は「満員電車は耐えられない」と感じたのです。

 ですから、仕事を選ぶ時の重要事項が「満員電車に乗らなくていい仕事」でした。電車に乗るのも、終電で帰るのも、時差通勤もOKだけど、「満員電車」だけは嫌だと思ったのです。

 演劇を仕事に選び、苦しいことがどれほどあっても、「満員電車に乗る」仕事じゃない、ということが困難に立ち向かうエネルギーでした。

 かわさん。もし、かわさんが「好きな服を着て、好きなメイクをして、好きな髪形にしたい」と思って、それが仕事や職場を選ぶ時の大切なことなら、今からでも、それを目指せばいいと僕は思います。

 驚きましたか? でも、ここまで中学高校時代のブラック校則にこだわっているのですから、「服装が自由であること」は、かわさんにとってとても大切なことなんじゃないかと思います。

 かわさんが今の職場で一生、勤め上げると決めてないのなら、過去のこだわりから自由になる意味でも、好きな服と好きなメイクと好きな髪形を追求できる職場や仕事を探すことをお勧めします。

 もちろん、そういう職場や仕事は探せばたくさんあります。ただし、そういう所は多くの人に人気があるので、それなりの努力はしないと就職できません。(日本より海外の方が見つかりやすいとは思いますが)

 僕の周りだと、舞台スタッフにはそういう女性が多いです。フリーで働き、実力次第なので、外見は自由だし、同時にアピールポイントになるので重要なのです。アシスタントでも、おしゃれに気を使っている人は多いです。または、うんと偉くなった女性ですね。プロデューサーとかコンサルタントとかです。

 もし、かわさんに、そういう職場を目指すつもりはないなら、休日にうんとおしゃれをすることで、昔の自分の悔しさを少しでも忘れるという方法をお勧めします。

 でももし、今の職場にそんなに執着がないのなら、服装が自由な職場を探す意味はあると思います。

「ある程度ヘアメイクが自由なところでないと働けなくなりました」とかわさんは書きますが、より「ヘアメイクを自由に楽しめる」仕事や職場に就職できたら、昔の自分を慰めることになるんじゃないでしょうか。それは、ブラック校則と愚かな指導をした教師への敵討(かたきう)ちにもなるでしょう。

 かわさん。「服装規定が自由」な職場や仕事を目指して努力することは、前を向くことです。ブラック校則に苦しめられた過去を悔やむことではなく、未来の自分を見つめることです。

 過去をいくら見つめても何も生まれないと思います。でも、未来を見つめれば、何をすればいいか、何が必要か分かってきます。

 かわさん。こんな生き方、どうでしょうか?

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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