大阪・関西万博の現場を確認したこの日は、次に博多に移動だった(撮影/篠塚ようこ)

建築界で異端の素材 実験を重ね問題をクリア

 永山と組んだファサードエンジニアの小野田一之(現・三和ファサード・ラボ社長)は、このアイデアを最初に聞いた時、それまでにない衝撃を受けたと言う。

「永山さんが自分で作った模型を持ってきたんです。それを見て、あっと驚きましたね。ツルッとした偏光板の奥をのぞくと、そこにないはずのものが立体的に見える。光学の世界で偏光板は普通の素材ですが、建築で使うなんて聞いたことがなかった。名だたる建築家でも、そうそう出てこないアイデアです」

 偏光板は電子顕微鏡の専門家でもあった父との会話の中で知り、自分の中にストックしていた独自のものだった。異端の素材ゆえ、建設会社が最初に行った耐久性能試験ではあえなく却下。しかし、納得できなかった永山は諦めず、試験場の片隅を借り、ひと月をかけて実験をやり直した。

「最初の試験は紫外線や熱などの条件が非現実的で厳し過ぎたのです。私は現実的な条件を設定し直して、データとともに問題点がクリアできることを証明しました。フランスのクライアントを説得することも大事で、英語が得意でなかったけれど、必死で伝えました。なぜなら、自分が手がける証しとして、この素材だけは絶対に譲れないと決めていましたから」

 この作品で才能ひしめく建築界の一角に喰(く)い込んだ永山は、アパレル店舗、個人住宅、カフェ「カヤバ珈琲(コーヒー)」(東京・谷中)や老舗旅館「木屋旅館」(愛媛県)のリニューアルで手腕を発揮していった。12年にはアーティストの藤元明(48)と結婚。公私ともに順調だった道のりの中で、初めて立ち止まったのは、長男の妊娠中に「豊島横尾館」(香川県)の話が来た時だ。

 瀬戸内海に浮かぶ豊島の古民家を改装して、横尾忠則の美術館をつくるプロジェクトでは、地元の協力を得るためにも、現場通いが必須だった。この件に限らず、建築の仕事は現場なしでは成り立たず、その現場は東京から遠く離れていることが多い。仕事と結婚は両立できるが、出産を控え、さらに子どもを育てながらでは、仕事は完遂できないのではないか。いったんキャリアを中断し、事務所も縮小すべきではないか。そう考えた時に、母から「育児は全面的に協力するから、その話は受けなさい」という強力なプッシュを受けた。

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