「JINS PARK 前橋」は2層の吹き抜けに配した大階段が特徴。手がけた仕事は機会がある度に立ち寄って、様子を確認している(撮影/篠塚ようこ)

「素材と表現には、いつもこだわっています。最近は人件費、資材の高騰もあり、なかなか当初の計算通りには行かないのですが、そこを乗り越えてイメージした形に近づいていく過程が、楽しくてやめられないですね」(永山)

バッシングは仕方がない 建築は建ててこその世界

 日本は世界に冠たる建築家の輩出国である。戦後の丹下健三から始まり、磯崎新、黒川紀章、安藤忠雄、隈研吾、妹島和世……と、時代を象徴するスターが次々と生まれてきた。永山はその後続世代で、藤本壮介、中村拓志らとともに前線に連なる一人だ。

 だが建築家を取り巻く状況は、昔と今ではまったく変わってきている。永山がかかわる大阪・関西万博は費用の膨張に批判が続出。東急歌舞伎町タワーは、永山がまったく関与していない「ジェンダーレストイレ」が炎上を呼び込んだ。そうでなくとも、超高層プロジェクトは、投資リターンを最大化する事業スキームが最重要で、建築が持つ創造性はその下位に押し込められがちだ。キャンセル・カルチャー、リスクヘッジの世の中にあって、建築家はもはやスターではなく、世間から放たれる矢をかわすスケープゴートとして扱われかねない。

 しかし、その現実を背負いながら、永山に悲壮感はまったくない。

「いろいろな意見があるのは当たり前で、バッシングが起こるのも、ある意味仕方ない。でも、建築は建ててこその世界。誰かがやらねばならないのだったら、私がその役を引き受けて行動する。その姿を次の世代に見てもらいたいのです」

 と、直球の言葉を返してくる。

 永山が率いる「有限会社 永山祐子建築設計」は現在、所員16人。超高層ビルから眼鏡、小箱のような手の上に乗るプロダクトまで、中身もオフィス、商業、美術館、住宅など、多様なプロジェクトを手がけている。男性優位、筋力優位のこの世界にあって、会社は永山も含めて女性が7人。本人を筆頭に子育て中のメンバーも多く、事務所の雰囲気はさらっとなごやか、昭和時代の大家族のような趣がある。

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