「骨壺ごとでもいいよ」
葬儀業界で30年以上、企画や司会を務めてきた葛西さんがSPACE NTK社を設立したのは17年。翌年、米ロサンゼルスで開催された国際宇宙開発会議でスペースXの技術者と出会ったことをきっかけに、同社との交流が始まった。
20年夏、宇宙葬を行う資金調達のめどがついたことを連絡した1週間後、自宅にいた葛西さんのスマホが鳴った。国際電話の番号だった。恐る恐る電話に出ると、「イーロン・マスクの代理人です」と、流ちょうな日本語で男性は名乗った。
マスク氏はスペースXの創業者で、ロケットの打ち上げを政府から民間主導へと変えた人物だ。主力ロケット「ファルコン9」の打ち上げ回数は今年2月、300回を超えた。
「すぐ後ろにイーロンがいるのですが、宇宙葬をやるなら人1人分のご遺骨も打ち上げられる、これまでになかった宇宙葬をやろうと言っています」
従来の宇宙葬は「数グラム」の遺骨を打ち上げるものだった。葛西さんはスマホからの声に息をのんだ。
「マスクさんからそんな提案をされたら、断れないじゃないですか。わかりました、と返事をしました」
宇宙葬を行うには専用の人工衛星を作る必要があることも伝えられた。
「ぼくらのロケットは大きいから、骨壺ごと入れてもいいよ、柩くらいの大きさでも大丈夫だよって。もちろんそれはマスクさんのジョークなんですけれど」
葛西さんは愉快そうに振り返る。
宇宙葬は国内でも広がるか
宇宙葬は、すでに海外では多くの「実績」がある。国内でも今後、普及していくのか。
米国で宇宙葬を手掛けるセレスティス社の正規代理店である大阪市の銀河ステージ社によると、セレスティスは1回の打ち上げで150~300人の遺骨を乗せてロケットを打ち上げている。そして日本人の遺骨もこれまでに8回、計40人以上を宇宙へ送り出してきたという。
萬好(まんよし)勝成本部長は、
「宇宙が好き、宇宙に行ってみたいという、本当にさまざまな人が利用されています」
と説明する。