「本でも紹介しましたが、〈大きな手せまってきたら虫かごのゼリー生活始まるんだよ〉(天田千英菜・小4 ※当時)など、『ゼリー生活』という言葉のセンス、下の句のライトでありながら有無を言わさぬ言い切りなど、脱帽です」
若い世代に短歌がはやっている一方で、「今は短歌のルールや型がわかりにくくなっているのではないか」と、笹さんは懸念する。
「『サラダ記念日』の俵万智さんも自由に書いているようで、実は伝統ときっちりつながっています。伝統を知り、自分が上達しているという感覚が持てないと、途中でつらくなってくるんじゃないでしょうか」
短歌の歴史は長い。新しい表現だと思っても、すでに先人が試みていたりする。そう知ってからが勝負なのだ。
「この本は入門書ですが、単なるハウツー本にはしたくなかったんです。本を読んで実践すれば、それなりにいい歌は作れるようになるし、新聞や雑誌の投稿コーナーの常連になったり、歌集を出す人も出てくると思います。でもそこで満足してほしくない。短歌の歴史や継承されてきた技術を学びつつ、短歌を一生の相棒として生きていく人が増えるといいな、と思っています」
(ライター・矢内裕子)
※AERA 2024年3月11日号