怪談を語る東大生たちは、複雑なバックグラウンドを持つ人が多かった
怪談を語る東大生たちは、複雑なバックグラウンドを持つ人が多かった

 象徴的だったのは、「人間とは何だと思うか」というアンケート質問に対し、ある話者から出た「人間は森羅万象の一部に過ぎない」という言葉だ。人間を完全なものとは捉えず、「不完全で小さな存在」であることを自覚する。俯瞰の視点を持ち、自らを含む人間が不完全な存在であるということが前提にあるからこそ、不可解な怪奇現象を無理なく認められる東大生が多いのかもしれない。

「自分が心霊現象と真っ向から向き合うだけでなく、自分と心霊現象を真上から客観的に眺めている。そういう人は怪異をすんなりと受け入れていますし、度量の大きさがあります」(豊島氏)

 またもう一つ、豊島氏が感じた“傾向”がある。東大生は不自由のないエリート人生を歩んでいるように思われがちだが、怪異を語る話者たちの多くは、劣等感や壮絶な過去を持っていた。ごみ屋敷で育った人、義理の父親から虐待を受けて育った人、風俗街の脇で育った人、大学を中退した人、精神を患い、自らを救世主だとみなす人……。そのバラエティーに富んだ人生に、豊島氏自身も驚いたという。

「東大出身者たちに話を聞く中で、怪異そのものも面白いけれど、怪奇現象を体験したこの人たちの人生こそ伝えるべきだと思うようになった。恐怖体験というのは往々にして、体験者がトラウマを抱えていたり、心的状態が不安定であったりする時に起こるもの。心霊が『心の霊』と書くように、心のありよう次第で、何らかの怪異が姿を見えるということはあると思います。誰が怪異に出会って誰がそれを語るのかということが、怪談にとっては重要なのだと、東大生たちから気付かされました」

 優秀さゆえの苦悩や好奇心が、彼らに怪異を見せてしまう。「東大生」と「怪談」、実は親和性が高い組み合わせなのかもしれない。

(AERA dot.編集部・飯塚大和)

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