『東大怪談』を上梓した映画監督・豊島圭介氏
『東大怪談』を上梓した映画監督・豊島圭介氏

 東大生たちは、怪奇現象を判断する「チェック項目」も多かったという。例えばある語り手は、過去にバイク事故があったとうわさのある心霊スポットのトンネル付近で、聞こえるはずのない大量のバイクの爆音を聞いた。その時、第一に、その山道は一本道なのに、追い越されることも追い抜くこともなく、ひたすら耳元で爆音が聞こえ続けた点で異常だと感じた。その次には「こんなハウリングは山奥ではしない」「隣の山からの反響も構造的にあり得ない」など、異常な現象を反証するための細かな材料をいくつも挙げたという。「正常」かどうかを判断できる知識量が豊富な分だけ、そうでない状況に違和感を覚えやすいのかもしれない。 

 豊島氏が取材を続けると、予想以上に多くの東大出身者たちが心霊体験をしていることがわかった。彼らを怪異に引き合わせている一因として、「特異な探究心」があるのではないか。豊島氏もこう話す。

「怪奇現象に立ち会いたいという強い好奇心と探究心ゆえに、自ら心霊スポットに足を突っ込んでしまう人もいました。それも冷やかしではなく、大真面目なんです。ある話者はもともと民俗学に興味があって、都市工学科で学びながら、幽霊と人間が共存する世界が作れないかと考えた。そんな理由で心霊スポットに行く人なんて、普通いませんよね。学部別にみると、文系の割合が多く、特に文科三類(文III)の出身者が多かった印象です。自分の体験を物語として語るわけですから、人文学寄りの脳の構造をしている人が多いのかもしれません。中には『心霊体験を物理で解明しようとするのは間違いなんですよ。もっと人文学的な観点で見るべきだ』と語っていた人もいて、いかにも文IIIらしいなと感じました」(同)

 日本屈指の頭脳を持つ東大生なら、不可解な現象に遭遇した際も科学的に証明しようとするのかと思いきや、そうとも言えないようだ。理系学部の話者たちも、必ずしも物理や科学的な解釈で測ろうとしているわけではない。「(世の中には)科学的に証明できないこともある」というスタンスの人も多く、その潔さは、どこか意外な印象を受ける。

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語り手たちの「壮絶な過去」