最近の刺しゅう機は、パソコンで作った絵柄のデータをWi-Fi経由で受け取れるが、刺しゅうの位置がずれてしまうエラーが発生したり、電子基盤が故障したりすることが少なくなく、用途が限られた専用の機器だけに交換修理の費用もばかにならないという。
一方、FDを使った古い刺しゅう機は、コンピューター制御の部分が少ないぶん整備しやすく、長く使えているという。また、機器の構造がシンプルなため、糸のテンションなどを調整したり、カスタマイズができたりするのもメリットだという。
「もちろん、最新型の自動制御の刺しゅう機が優れている点もありますが、それを導入すれば完璧な刺しゅうができるわけではありません。ほかの社長さんも、FDの刺しゅう機のほうがかわいがってあげたぶん、自分の思いどおりに調整してうまく刺しゅうができると言います」(同)
FDは今でも、アマゾンなどで「未使用在庫品」が簡単に手に入る。
国立科学博物館の産業技術史資料情報センターによると、これまでに生産された3.5インチ型FDは、約360億枚にのぼるという。
兵庫県香美町は昨年、60枚のFDを官公庁オークションに出品。町役場の倉庫で「発見」された新品で、6千円で落札されたという。町は落札者を公表しておらず、「いったい何に使うか、わからない」と担当者。
姿を消したかに思えるFDだが、「絶滅」の心配は当面なさそうだ。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)