また、大学受験では受験前になって、急に「勉強しなさい」と干渉しても、難しいことがあるという。高校生や浪人生になると小学生の頃と違って、自我が成長しているからだ。
さらに、長期にわたって、勉強習慣を維持することが東大受験には重要なのだという。
「東大に合格する子どもは、親との会話が多くて、仲がいいと感じます。子どもを信頼してうまく距離感を保つといいと思います。それが、子どもが自立し、勉強習慣を維持することにつながると思います」(同)
功刀さんによると、ほどよい距離感で子どもを支えるために親ができることは、体調管理や弁当作り、そして子どもが困ったときに相談に乗ることだという。
子のために諦めないで
東大文科III類2年の兵動凛子さんは、家族の信頼関係を大切にして、東大受験を乗り切った一人だ。
兵動さんの母親は公務員。管理職ではないがフルタイム勤務だった。兵動さんは佐賀県内の進学校に通っていた。
「東大を受けたいと言ったときも、驚かれたけど止められはしませんでした。両親は、高校での面談で『この子を信頼していますので、先生にお任せします』と言ってくれました」
両親はいつも兵動さんのことを否定せずにいてくれた。
「信頼が積み重なって、受験を頑張ろうと思えました」
母親はフルタイムで働く派遣の事務職だという東大理科・類2年の田中麻琴さんは言う。
「親がずっと家にいることが大学受験にプラスになるかというとそうではないと思います」
受験勉強は高校ですると決めていたから、もしも家でプレッシャーにさらされていたら、つぶれていたかもしれない。親は口酸っぱく言わないでいてくれた。母親が朝4時に起きて作ってくれた昼の弁当が、一日の楽しみの一つだった。家は安心できる環境になった。
「専業主婦の家だったらよかったなんて思ったことはありません。仕事の話、人間関係の話を聞いて勉強になるし、頑張って働くかっこいい姿をみせてくれたと思う。母は妊娠、出産のときに一度仕事を辞めましたから、私としては申し訳なさがあります」
忙しい親でも、大学受験に関わる方法はある、と田中さん。
「模試、共通テストの本番は土日なので、忙しいお父さんも送り迎えをして関わることができます。世のお母さんたちには、子どもの東大受験のために、キャリアを諦めなくちゃなんて思ってほしくないです」
(編集部・井上有紀子)
※AERA 2023年7月31日号より抜粋