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 会社員生活30年超の経験から断言するなら、こんな幸運めったにない。おまえはスズ子ほど才能があるのか、という質問は聞かなかったことにして、羽鳥的な人(=仕事ができて尊敬できる)がいて、しかもその人が自分を応援してくれる。そういう確率は「ゼロではない」くらいだと思う。孤軍奮闘が空回り、気づいたらますます1人。そんな経験、山ほどある。

 いかん、いかん、スズ子の話だ。彼女の応援団は、羽鳥以外も粒ぞろいだ。マネージャーの山下(近藤芳正)もその1人、スズ子に「スズさん」と呼んでもいいかと尋ねたのは良い場面だった。「『福来さん』という呼び方も他人行儀な気ぃがずっとしてました。今日をもって『スズさん』とお呼びしてもよろしいでっか」と山下。羽鳥は必ず「福来君」だし、山下もこんなふうに尋ねてくる。スズ子応援団は、誰もスズ子を女の子扱いしない。元会社員としてはこういうところにグッとくる。

 山下の「よろしいでっか」にスズ子は、「一瞬、プロポーズかと思いましたわ」と言って笑っていた。こういう天然な感じというか、何事も明るく笑いにする感じというか、これもスズ子という人の持ち味の一つだ。だから周囲を味方にしてしまうのかも。うっすらそんなことを思っていたところに登場したのが、愛助の母・トミ(小雪)だった。

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 愛子とスズ子が暮らす家を訪ねてきたのだ。「わては間違うてたんやろか、そればっかり考えてますのや」と言った。自分は先代の社長と出会い、夫婦になり、力を合わせ、子供も芸人も同じ夢を見て頑張ってきた。それがいい夫婦、いい家族と思っていた。だが愛助は違った。スズ子と夫婦になると言って死んでいった。それを自分は最後まで許さなかった、と。

 ここからのスズ子の対応は、本気でとても勉強になった。スズ子はこう言った。「お母さんは間違うてないと思います。愛助さんも間違いやない。家族や夫婦に間違いなんてあらしまへん」。トミの「家族論」(選択的夫婦別姓を反対する人の考えはこれかも、と書いたのは私だ)は否定せず、愛助も否定しない。結果、トミの心のつかえが取れる。誰も傷つけず、目の前の人をよい気持ちにさせる。そういう神対応だった。

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ヒロイン応援団に見る夢